第65話 斎藤るなの独白
私、斎藤るな。浜森中学校に通う1年3組の生徒。
母はフィリピン人、父は日本人のハーフ。
母は仕事が忙しいことが多いから、いつも寂しい思いをしている。
そんな私は、身体を動かすのが好きで、良く外で遊ぶ子だった。
そのおかげで運動は得意だけれど、勉強はあまり好きではない。
入学当初から、私にはある悩みがある。
それは小山ありさという人間の存在。
彼女はいつも付き纏ってくる。正直鬱陶しい。
1人では何もできない寄生虫。
自分で言うのも何だけど、私はクラスの中で容姿が良い部類に入る。
幼い頃から可愛いと言われることが多かったし、何よりも1年に告白される回数がそれを証明している。
けれど、可愛いから友だちになるとか、そういう利己的な感情じゃなくて、純粋な気持ちで友だちになってくれる存在が欲しい。
容姿が少し良いからって、付き纏われるのは迷惑だ。
その点、金子沙織は理想とする人物像の人間だった。
彼女は損得勘定ではなく、純粋な人間性だけで人を判断している。
私がありさから離れてしまうと、沙織との人間関係も壊れてしまう気がして、彼女と縁を切ることができずにいる。
教室ではできるだけ沙織と話すように心がけているけれど、下校時に遭遇するのは避けようがない。
テニス部の練習がない時は、帰る時間が一緒になるためだ。
「ありさでしょ」、るなは呆れたように言って、彼女の手を振り払った。
「えー?どうしてわかったのぉ!?」
「だってそんなことするのあんたくらいしかいないし、うちっていう人もクラスに数人しかいないもの。」
「そっかぁ。そうだよねぇ。元気そうで何より。るなは休み中どう過ごしてたのぉ?」
「大して親しくもないのに馴れ馴れしく話しかけんなよ寄生虫が。」と心の中で毒づく。
「別に大したことはなかったわよ。あんたは?」
「うち!?うちはねぇ、家族で旅行に行ったよ。ワクワクランドとドキドキハイランドに、ハッピー水族館。ワクワクランドではジェットコースターに乗ってね...」
彼女は楽しそうに話す。
その度に私の気持ちは沈んでいく。だって、私のお母さんは仕事が忙しいから、たまにしか会えないもの。家族全員で旅行なんて夢のまた夢...
「ねぇ、るな。どうしたの?何かあった?」
ありさが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「ううん、いや、何でもないよ。続けて?」
ありさに私の気持ちを話したところで分かってくれる筈もない。彼女は毎日家族全員と楽しく過ごせているのだから。
私はありさの話をぼんやりと聞きながら、強烈な孤独を感じていた。