第62話 乙女の恋心
私、園崎凛、27歳の中学教師。
中学校の1学期も無事に終わり、今は夏休みに入っている。
教員は夏休み期間中でも多忙であるが、私は充実した日々を送っていた。
仕事の合間を縫って、好きな人とデートもした。
1年4組担当のイケメン教師、鈴木林太郎である。
私は彼のことが好きだ。優しくて気が利いて、とても真っすぐ。
まさに私が理想とする教師像だ。
「彼と結婚したらそれもそれで幸せだろうな。」、と私は時々思う。
けれど、私は結婚する気はない。
教員は教材づくりに授業研究、保護者対応など、様々な業務に日々駆られているし、何よりも私は今の生活に満足している。
子どもたちが大好きな人にとっては最高の職業だ。
だから、私は今の生活スタイルを無理に変えるつもりはない。
ただ好きな人と一緒にいられるだけで良いんだ。
多分、林太郎も私と同じように、誰かと結婚することは考えていないと思う。
「凛、あのさ、前から思ってたんだけど、俺は凛が理想とする教師像について聞いてみたい。」、飲食店で鈴木先生が私に尋ねた。
「私の理想とする教師像かぁ...そうだなー。やっぱり、一番は自分のクラスの子どもを笑顔でいさせられることかな。」
私と彼は互いのことを名前で呼ぶほど、仲を深めていた。
「そっか。とても大切なことだよね。1年3組の子たちは常に笑顔かい?」
私は思わず口の中の水を噴き出しそうになった。
「そ、それは、その、これから頑張ります!」
「そっかそっか。まだ時間はたっぷりあるしね。教え子たちと焦らず向き合えば良いよ。」
「うん、ありがと。逆に、林太郎の理想の教師像は?」
今度は私が彼に聞き返した。
「俺か?当たり前かもだけど、俺の理想の教師像は生徒のことを一番に考えることだな。ほら、教師って教えたがりだから、ついついあれもこれも言いたくなっちゃう。けど、それが本当に子どものためになっているとは限らない。だから、生徒のためを一番に思って行動できる教員になるのが俺の夢だ。」
彼の瞳は美しく、とても真っすぐだった。私が大好きな綺麗な瞳。
この時、私は心に決めた。
「2学期は必ず、1年3組を笑顔にしてみせる!」
そして、心の中で叫んだ。
「頑張れ、私!」
2学期の初日、私が教室に入ると元気よく挨拶をしてくれる教え子たちの姿があった。
「おはようございます、園崎先生!」
「久しぶりだね!」
「お久しぶりです、園崎先生!」
「先生も夏休み中元気にしてた?」
クラスは活気に溢れている。
「みんな、おはよう。先生は元気に過ごしてたよ。」
私は笑顔で答えた。
「2学期は教え子たちと良い思い出がたくさん作れる」、そんな予感が私の胸の中に浮かび上がってきた。