第61話 本当の物語
「丸山望、貴様!!」、今泉宗太郎が顔を引き攣らせる。
「良いんですかそんな態度を取って?私はこの証拠を持ってあなたを訴えることもできるんですよ。」
「分かった、分かったから。何でもするからそれだけは勘弁してくれ。」
「じゃあ、学校運営の事実上の権限を私にください。」
「丸山先生、そんなこと、校長である私が許しません。教頭先生には責任を取って辞任してもらうという形が良いかと。」
「あんたバカじゃないの?」、校長に対して勝ち誇ったかのように語気を強めたのは先ほどまで今泉教頭に首元を掴まれていた牛島佐紀。
彼女は被害者を演じるためにわざと抵抗しなかっただけなのだ。
「私は校長先生がパワハラしてたっていう証拠を持ってる。校長だからって言い逃れできると思うなよ。生徒舐めんな。」
「そうだそうだ!」、「さすが佐紀!格好良い。」、クラスメートから拍手の嵐が沸き起こる。
「分かりました。じゃあこうしましょう。丸山先生に学校運営の事情上の決定権をお譲り致します。その代わり私たちのことは訴えないで頂きたい。」と松山校長。
「ありがとうございます、丸山先生。みんなも、ありがとう!」、私は教え子と丸山先生にお礼を述べた。
こうして、松山校長と今泉教頭は丸山望の操り人形と化し、私がパワハラやセクハラを受けることもなくなった。
6月の下旬、前期期末テストが実施された。
クラス平均は国語39点、数学33点、理科28点、社会36点、英語35点で合計171点だ。
相変わらず他クラスと比べれば酷い結果だけれども、中間テストの時と比べて61点も上がった。これは大きな成長だ。
因みに小林侑李と杉田天使、牛島佐紀と荻原まどかの勝負は結局引き分けに終わった。
侑李と天使のテストの平均点も、佐紀とまどかの平均点もぴったり140点だったのだ。
私は、牛島佐紀たちのグループと侑李たちに「引き分けだったんだから、これからはお互いに手出ししないこと」を約束させた。
お互いを絶対許せない部分はあると思う。けれど、彼女たちは私との約束を守ると言ってくれた。
学校はこれから夏休みに入る。教員にとって、夏休みは決して暇ではない。2学期以降の準備、研修、部活動の指導、事務処理、学校行事の計画・準備に、校舎の管理、地域のイベントへの参加などやらなければいけないことは山積みだ。
けれども、私の気持ちは爽やかだった。様々なことがあったけれど、1学期を乗り切れたという実感があったし、もうパワハラやセクハラを受けることもない。
私はとても爽やかな気持ちだった。
そして、私と教え子たちの本当の物語は、これから始まるのだ。