第6話 新しき友情
「あたし、日和さんに謝りたいです。」
沙織が真剣な表情で凛に訴えかけてきた。
彼女の瞳は少し潤んでいるように見えた。
「あの、先生、あたしと日和さん2人で話す時間を取っていただけませんか。」
彼女の真剣な表情を受け止め、凛は面談を行っている図工室に日和を呼んできた。
沙織は日和の目を見て、拳を握り締めた。
恐る恐る前に出た。
かと思えば、彼女の身体は次の瞬間凛の後ろに隠れていた。
「ちょっと、沙織さん、先生の後ろに隠れてどうすんのよ?日和さんに言いたいことがあるんでしょ?」
「は、はい。先生、すみません。少しだけ、ほんの少しだけ、先生と2人だけで話させてもらっても良いですか?」
田辺日和に少しだけ外に出てもらって、再び凛と沙織だけが対面した。
「あの、先生、あたし、やっぱり言えないです。本当の気持ちを言うのは恥ずかしいから。それに、日和さんはきっと謝っても許してくれない。」
「ぷっ。」、凛は思わず彼女の言葉に噴き出した。
目の前にいる普段気丈に振舞っていて多少教師に反抗的でも、やはり13歳の幼い少女なんだなと感じたからである。
「もう、先生、何がおかしいんですか?」、彼女が頬を膨らませる。
「いや、ごめんごめん。先生も人に謝るのに勇気がいる経験したことあるなって思ってさ。中学校の教室においてあった花瓶を壊しちゃったことがあってね。怒れらるのが怖くて、先生に言えなかったんだ。結局、友達が自分が割ったって言って私を庇ってくれたけど、その後お礼も言えなかった。」
「でも、それは先生がわざと割ったわけじゃない。それに、あたしのしたことは非人道的な卑劣な行為よ。」
「そう思うことができたならそれで十分よ。まずは謝ってみないことには、日和さんが沙織さんのことをどう思ってるのかもわからないじゃない。」
沙織は凛の言葉に黙って頷く。
改めて、日和にも教室に入ってきてもらう。
沙織は彼女にゆっくり近づいた。
「あの、その、あたし、許されることじゃないってわかってる。けど、この前はごめん。」
沙織は勢い良く自分の気持ちを吐き出した。
「べ、べ、べ、別に気にしてないから。あれ、あれ、あれはもう過去のことだよ。」
田辺日和には緊張した時にどもってしまう癖がある。これが、他の生徒に誤解を与えてしまう側面も否定はできない。けど、彼女の根は優しく逞しい。
自分をいじめた相手に対して、和解の握手をしてみせた。
沙織が涙を拭って、日和の身体に抱き着く。
「ありがとう、大好き。」
沙織は何度も彼女に感謝の言葉を述べた。
沙織と日和の間に初めて友情が芽生えた瞬間だ。