第52話 一筋の希望
「憎たらしいほど綺麗な肌ね。今から傷をつけてあげる。まどか!」
佐紀に呼び掛けられたまどかはポケットからライターを取り出す。
理科の実験室から盗んできた鉄球を熱する。
「な、何をす...」
まどかが天使の背中に熱した鉄球を当てる。
「っ...やめてよ...お願いだから...」
佐紀が涙目になる天使を満足げに眺める。
「天使の泣き顔も見れたことだし、そろそろ行こうか、みんな。」
佐紀の号令と共に全員が立ち去る。
天使は泣きながら家路についた。
見知らぬ人に道を聞くのが大変だった。
「お嬢ちゃんどしたん?」
心配して声をかけてくれる人には「何でもありません。」と答えた。
「何でよ、何であんなことすんのよ。私が何かした?やっぱり名前が駄目なのかな?天使って書いてエンジェルなんて、確かに普通じゃないもんね。でも、あんなことしなくても良いじゃん。」
頭の中で何度も呟く。
翌日は学校に行く気になれなかった。それでも休みたくはない。わざと遅く歩いて少し遅刻した。
「天使さんが遅刻するなんて珍しいわね。」、担任の園崎先生が言った。
「はい...」、俯いて静かに答える。
「どうした?何かあった?」
「いえ、何でもないです。」
席について気を紛らわすかのように読書を始める。
「天使、遅刻するなんて珍しいね。私でよければ話聞くよ。」
何食わぬ顔で味方を演じてくるまどか。
「あんたにだけは絶対話したくない!」
ついつい語気を荒げる。
「えぇ。酷い。私、私そんなつもりじゃなかったのに...ただ天使さんのことが心配で...」
まどかは机に突っ伏して泣くフリをする。
「ちょっと、何があったか知らないけど、天使さん、今のは言い過ぎじゃない?」
真理が穏やかな口調で言う。
それが天使の心を余計に苛立たせた。
「水野さんみたいな優等生には、私の気持ちなんて分からないでしょ!」
「何があったかしらないけどさ、周りに八つ当たりするのは良くないんじゃない?」
佐紀が口を挟む。
「昨日あんなことしといて、良くそんなことが言えるわね?」
ヒートアップする天使に佐紀が内心勝ち誇った気持ちで言った。
「昨日?昨日はほんとごめん...わざとじゃなかったんだけど、足踏んじゃって...この通りだから。」
迫真の演技で頭を下げる佐紀。
「何だよ、そんなことで怒ってたのかよ。」
「天使って名前は変わってるけど良い子だと思ってたのにがっかり。」
クラス内から冷たい反応が起こる。
天使が教室から出て行こうとした時、侑李が立ち上がった。
「私は、佐紀の方が悪いと思うけど?」