第46話 儚き失恋
「お前ら、やめろよ。嫌がってるじゃないか。」
その時、聞き覚えのある声がした。絶望に追いやられた春奈の心に差し込んだ一筋の光。
「山川裕也、あんたなんなのよ。私たちの邪魔をしないで!」
佐紀が勢い良く放った右ストレートパンチを片手で軽々しく受け止める裕也。
「女の子に暴力を振るったらどうなるか分かってんの?」
「これは暴力じゃない。正当防衛。俺はあんたを傷つけてないぜ。」
「ちっ。今日のところは勘弁してやる。」
佐紀は舌打ちをすると、取り巻きたちと共にその場をあとにした。
「ありがとう。また助けられちゃったね...」
春奈が裕也に感謝の言葉を述べた。
そして、静かに続ける。
「好き...」
「え?」
「やっぱり、私...裕君のことが好き。だから、」
「悪ぃ。俺、好きな子がいるんだ。だから、その、お前とは付き合えない。ごめん...」
春奈がすべてのセリフを言う前に、裕也が口を開いた。
「そう、なんだね... どんな子?」
「そりゃぁ、可愛くて、背が小さくて、性格がちょっときつめで...って、そんなこたぁどうでも良いだろ。」
「だって気になるじゃん。裕君が好きな子。」
「春奈には教えない。」
「裕君の意地悪。」
休み時間が終わって教室に戻った後、春奈は授業に全く集中できなかった。
好きな人に振られたという事実が彼女の心を痛めつけ、涙を堪えるのに必死だったから。
ふと裕也の方を見つめる。最近、彼は授業を真剣に聞いていることも多い。前は勉強に全くと言って良いほど興味を持っていなかったのに...
「裕君の好きな人って、誰なんだろう...」と春奈は思った。
一方、山川裕也は誰にも気づかれぬよう教室の隅に目をやっていた。視線の先には小林侑李の姿がある。
背は低いが、スタイルが良く、睫が長く鼻が高い彼女の姿を入学式で見た時に一目ぼれしてしまったのである。
しかし、彼女とは今も話すきっかけを作れずにいる。ただでさえ性格が気難しそうな上に普段は浅野真美と行動していることが多いからだ。
「でも最近は1人で行動していることが多いし大チャンス」と裕也は思っていた。
彼は部活が終わった後、忘れ物を取りに教室に向かった。
教室では小林侑李が机に突っ伏して考え事をしていた。
「全く、何なのよ、真美の奴。早く謝ってきてよね。私、謝るの苦手なんだから...」
教室に入ると人影が視界に入ったので、裕也は少し驚いた。しかも、それが自分の好きな人だったのだから。
「どうしたんだ?」
恐る恐る声をかける。
「べ、別に、何でもないわよ。」
侑李は逃げるように教室から出て行った。