第44話 スポーツの功罪
「身体を動かすのは気持ち良いし、爽やかな汗を流すことで爽快な気分になれる」、これは言わずと知れたスポーツのメリットである。
が、しかし、これは「運動が得意な人」にとっての話である。
「運動が苦手な生徒」は「運動ができない」というレッテルによってクラスという集団から疎外される脅威に常に怯えている。
チームに貢献できなければ通常の人間関係までも損なうことになりかねないからである。
早乙女梨華、田辺日和、中村裕太、山田春奈はいずれも運動が苦手なタイプの生徒であった。
中村裕太は保健室登校なので練習には参加していないが、その他の3人はドッジボールの練習に参加していた。
真っ先にボールに当てってばかりで周囲から責められ続けた山田春奈は徐々にやる気をなくしていった。
彼女の心が、我慢の限界の臨界点に達した時、ふとこんな言葉が口から洩れた。
「やっぱり私には運動なんて無理だ。できる子にはこんな気持ち分からないんだろうな...」
牛島佐紀が真っ先に彼女の言葉に反応した。
「あんた、何弱気になってるのよ。ただ逃げ腰になってるだけじゃない。」
「そうよそうよ。」
「さすが佐紀、良いこと言う~!」
彼女の取り巻きたちもそれに反応する。
「ほんとだよ。結局お前は嫌なことから逃げたいだけ。」
山川裕也もそれに便乗する。
「っ。私だって、、私だって私なりに努力してるのよ。休み時間も遊ばずに練習して、早朝ランニングも筋トレも毎日して。それでも全然上達しない、この気持ちがあんたたちに分かるの?私のこと、何も知らない癖に勝手なこと言わないで!」
「ちょっと、山田さん!」
引き留めようとする真理と天使を無視して、春奈は泣きながら教室を飛び出した。
少し気まずそうな面持ちで彼女が出ていった方を見つめる裕也と「あの女、マジ面倒くさい」と眉を顰める佐紀。
「俺、あいつを呼び戻してくるわ!」、そう言うなり裕也が体育館を飛び出す。
佐紀が取り巻きたちに囁いた。
「あの女、マジムカつく。あとでみんなでいじめてやろうぜ。」
「良いねそれ。」
「なんかムカつく顔してるよね、あいつ。」
彼女の取り巻きたちも賛成の意思を口にした。
一方、裕也は教室に向かっていた。何となく、彼女なら落ち込んだ時教室に行くだろうと思ったから。仮にも小学生の時からの付き合いである。彼女のことは大体良く分かる。
案の定、机の上に突っ伏している彼女を発見した。
「おい、大丈夫か?」
返事がない。裕也はもう一度彼女に声をかけようとした。