第43話 クラスの課題
凛は、3組の体育祭の練習の様子をそれとなく見守っていた。
相変わらず団結力がない、それがこのクラスの課題である。
特に問題なのは女子サッカー。天使だけは全体のことを考えて動いているものの、それ以外はバラバラである。
牛島佐紀らのグループは一体感はあるものの、佐紀の発言に逆らうことができず、言葉を選ばずに言えばまるで軍隊のようである。
ミスをすれば佐紀から執拗に責められるという緊張感が、彼女たちの瞳を怯えさせていた。
また、真美と侑李はまだ仲たがいが続いているようだった。
お互いに、パスされたボールをわざと無視していたから。
女子バスケは水野真理のおかげで練習が捗っていた。
リーダーシップが取れる生徒が1人いるだけで、練習の様子が変わる。
「真理さんには、サッカーの方にも協力してもらいたい。」と凛は思った。
真理はサッカーとバスケ両方に出場するが、彼女の身体は1つしかないので一斉練習の際には片方の練習にしか付き合えない。
そして、男子サッカーである。こちらの方は意外なまとまりを見せていた。
山川裕也、相川春樹、田中直人、秋田健、加藤大樹、久保和樹、佐藤雄介、清水琢磨、津田圭吾、手塚昌磨、深浦旭は、全員運動が好きで得意な生徒である。
普段の授業などには全く聞く耳を持たない彼らが熱心に練習に励んでいる様子は、凛の胸を打った。
最後に、男子バスケである。植松博、山田連、杉田健斗、森本猛である。このチームもまた問題を抱えていた。
彼等も全員スポーツが好きで運動神経は良いのだが、植松博と森本猛は犬猿の仲だったのだ。
お互いを罵りあうばかりで、練習が全くと言って良いほど進まないのである。
「もうお前らそんなにいがみ合ってんならバスケに出なくて良いよ。」、連が呆れたように言った。
「あーん?」
博と猛の声が揃う。
「お前喧嘩売ってんのか?」と博。
「俺が出なかったら勝ち目はないぜ。」と猛。
「良いか。お前ら、バスケはチームワークが大切なんだ。個人個人がいくら強くても意味がないんだよ。」
そう熱く語る連は普段の茶々を入れるお調子者の生徒という印象とはまるで違う、とても真剣な瞳をしていた。
個々のチームの練習でもこのような様子であるので、唯一の全体競技であるドッジボールの練習ではより大きな問題が発生するのはいわば当然の帰結であった。
その練習でクラスメートの能力差が明白に表れてしまったのである。
運動が得意な子とそうではない子の間の見えない溝、それが彼らの人間関係にまで亀裂を入れようとしていた。