第42話 少女の嫉妬
この前、牛島佐紀らから助けられたことで、杉田天使のことが気になって仕方ない侑李。
サッカーの練習でも、天使にアドバイスを求めることが多くなった。天使は名前は変わっているけれど、強くて優しい子だと分かった。
昼休みのことである。侑李が天使に好きな食べ物や誕生日などを聞いていると、校門から見慣れぬ人影が入ってきた。真美は彼のことを覚えていなかったが、天使は即座に言った。
「おはよう。同じクラスの中村裕太君だよね。しばらく来てなかったみたいだけど、大丈夫?」
そう、暫く不登校だった中村裕太は今泉校長の働きかけにより保健室登校という形で復帰したのである。
長い期間会っていないクラスメートのことを認識しており、彼のことを心配する様子からも杉田天使が仲間想いであることが良く分かる。
「ま、まぁ、何とか」、中村裕太は緊張した面持ちで応える。
「なら良かったー」、と優しく微笑む天使。
「天使のことをもっと知りたい」、侑李はそう思った。
放課後、いつものように真美に「一緒に帰ろ」と声をかける。
少しの沈黙のあと、彼女は静かに言った。
「私、もう侑李とは帰らない。」
「何で?」
「侑李はずっとあの子と一緒にいれば良いのよ。」
「あの子?」
「ほら、杉田天使って子。じゃあ、もう、私、帰るから。」
真美は静かにそう言うと教室を飛び出した。
「ああ、もう、何やってんだろ、私。あの子が私の侑李と一緒にいて悔しいからって、あんなこと言って...」
そう、真美は侑李とずっと一緒にいたかった。
天使が侑李と仲良くなったことによって、侑李が遠くに行ってしまうのではないかという気がした。
「けど、どうしよう。あんなこと言っちゃったし。もう私とは話してくれないかもしれない。それだけは嫌だ。侑李にだけは嫌われたくない。」
翌日、真美と侑李はお互い一言も言葉を交わさなかった。
そんな彼女たちを凛は怪訝に思った。
「どうしたんだろ。喧嘩でもしたのかな?」と内心思いつつも普段通り彼女たちに接した。
真美は昨日の自分の行動を後悔していた。
「どうしよう。侑李にだけは嫌われたくないのに自分から喧嘩の原因を作っちゃった。悪いのはすべて私。もう二度と話してくれないかもしれない。謝った方が良いよね。けど、謝っても許してくれないかもしれない...」
侑李に謝って再び仲良くしたい感情と謝っても許してくれないのではないかという不安が鬩ぎあう。
真美は結局、侑李に何も言わずに1日を終えたのだった。