第4話 複雑な心情
「人間関係を1からやり直したい!」
彼女の力強いその言葉に凛は少なからず動揺を覚えた。
沙織は、あのグループの中の中心人物だから、彼女の思うように人間関係を形成しているのではないかと予測していたからだ。
だが、話を聞くに連れて彼女がグループ内で中心人物だということは間違いではないものの、そこにはより複雑な人間関係が介在していることが明らかになった。
金子沙織、小山ありさ、浅野真美、小林侑李、斎藤るなの5人が仲良くなるまでは、彼女たちは他人に危害を加えるようなことはしなかったようだ。
話を聞いているうちに、5人は基本的には真面目な生徒なのだという印象を受けた。
だが、共に過ごす時間が長くなるに連れて、真美が沙織に対して不満を抱くようになっていく。
それは、普段の沙織の言動が彼女に対して誤解を与えたからだ。
沙織は元々毒舌なキャラで、悪気なく人を傷つけることが多かった。
そんな沙織に反感を抱いた真美は、小林侑李に相談を持ち掛ける。
結果、真美と侑李、そして沙織、るな、ありさの関係に亀裂が入る。
お互いに嫌がらせをするようになった。
具体的には、机の上に悪口を書きまくる、物を隠す、容姿をバカにするといった内容だ。
そんな彼女たちの様子を見ていた田辺日和は、ある時、5人で口論をしていた彼女たちに対して、「同じクラスなんだからいがみ合わずに仲良くしようよ」と声をかけた。
5人は日和の言い分が正しいと思いつつも、彼女に対して嫌悪感を抱いた。
それは、日和が普段から目立たないタイプの生徒で、友だちもいないように見えたからである。
「根暗で友だちもいないし、いつもぼっちで本を読んでいるあんたに、何が分かるの?」とありさ。
「そうよ、私たちのこと、何も知らないくせに、余計な口出しをしないで!」と侑李。
この瞬間に、いがみ合っていた5人に共通の敵が誕生したのである。
「まずは日和という鼻につく女を5人で団結していじめ、それに満足したらいがみ合いの続きをする」という約束が彼女たちの間で交わされた。
沙織は最初は日和に対して嫌悪感を抱いていたので、はじめこそいじめをすることに快感を覚えていたものの、段々と自分のやっていることが下劣だと感じるようになってきたというのだ。
凛は心の中で溜息をつく。いじめをする側にも色々な事情があるのだなと感じるとともに、どんな理由があれいじめはあってはならないという常識的な感覚が心の中で対峙する。