第37話 障碍者だって、認めない
凛のもとに一通の電話がかかってきた。スクールカウンセラーの杉浦雅子からである。
「本人の許可もとれているのでお伝えします。中村裕太君は、自閉症スペクトラム障害の傾向があるかもしれません。一応、彼の両親には精神科への受診を勧めました。」
「ありがとうございます。」
凛は感謝の言葉を述べる。
「ですが、」と雅子は続ける。
「親御さんは裕太君を精神科に連れて行ってくださらないかもしれません...」
「と申しますと?」
「親御さんは、裕太君に何らかの障害があると認めたくない様子で...」
そう、雅子が電話を掛けた時、中村裕太の母親は「裕太が自閉症?そんなわけないじゃない。あの子と一緒に暮らしていてもどこにも変なところはなかった。でたらめを言うのも良い加減にして。裕太が障碍者だって、私は認めない」
そう怒鳴られて一方的に電話を切られた。凛はこの件を校長の立花に相談した。
「全く、困った親がいたものですね。あくまで自閉症の傾向があるとお伝えしただけなのに、こちらが悪い要素は1つもないわ。あとは、私に任せなさい。」
立花はすぐに受話器を取った。
「もしもし。中村です。」
中村裕太の母親が電話に出る。
「わたくし、浜森中学校校長の立花直子と申しますけれども、裕太君のことについて少しお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか。」
「たとえ校長先生の言うことでも、私はあの子に障害があるっていうことは認めません。」
「まだ診断名が出たわけではありませんよ。傾向があるから病院に行って診てもらった方が良いと申したまでです。」
「仮に病院に行って裕太が障碍者だったら、どう責任を取ってくれるんですか?」
「自分が生んだ子どもに対して責任を取るのはあなたです。それは私の範疇ではない。」
「こんな学校になんていられないわよ。裕太には普通の人生を歩んで欲しいの!」
「それは、本人のためになっているのですか?」
「え?」
「自分の子どもに障害があると信じたくないのは、単なる親のエゴ。一番本人のためになる選択をすべきです。現に、不登校という形で問題は表面化している。あなたはその事実から目を逸らすのですか?」
「もう結構です。あなたの話には付き合えません。」、苛立った声と共に電話が切れた。
「全く、バカな親がいたもんです。」、立花が受話器を置いて呟く。
「立花校長、今のはちょっとやりすぎなんじゃ...」、教頭の松田博人が恐る恐る述べる。
「あのくらいで良いのです。現代の親のわがままに、いちいち付き合ってはいられません。」