第36話 スクールカウンセラー
杉浦雅子はその日、クライアントと対面する準備に備えていた。
いじめ、不登校、友人関係、親子関係、精神面など、様々な相談が来る。
そう、彼女の職業はスクールカウンセラー。
この仕事をしていると、雅子はいつも思う。
「外科医が患者の癌を摘出するように、クライアントの悩みを綺麗に取り除ければ良いのに...」と。
けれども、それは職業上不可能である。クライアントの悩みを解決しようと思ってはならない。これはあくまでもクライアントの悩みやストレスを抱える相談者の話を聞き、彼らが自分自身の力で問題を解決できるようサポートする仕事なのだ。問題を最終的に解決しようと試みるのはあくまでも本人の役目。
スクールカウンセラーとは、学校で児童生徒や保護者、教職員の悩みや問題に対して、心理学的な専門知識やスキルを活かして、サポートを行う専門家である。
彼等の活動は主に、「児童生徒への心理的サポート」、「学校における心理的体制の構築」、「保護者への支援」の3つの柱で構成されている。
立花校長は言った。
「現代は多様な人がいる時代。学校も狭い村社会ではなく、社会の一部となることを目指すのです。学校が抱える課題を解決していくために、教員だけでなく、スクールカウンセラーやソーシャルワーカー、事務職員など、多様な専門職が一体となって子どもたちを支援できる体制づくり、すなわちチームとしての学校を作っていくのが今後の課題です。」
中村裕太、普段は大人しくて目立たない、いかにも普通の生徒といった印象。
いじめやいじりなどをクラスから受けたことはないという。
いじめは一般的に不登校の原因に一番直結すると考えられがちである。もちろんいじめによって不登校になる生徒も多いが、そのような大きな原因がなくても学校に来れなくなってしまう場合が多い。
彼もその1人だった。
「僕は空気が読めない」、「友だちとどう接すれば良いか分からない」、「話しかけられても上手く答えられない」、彼の発言を聞いているとある1つの共通項が浮かび上がってくる。
対人関係の困難。雅子自身は専門家ではないのではっきりとしたことは分からないが、自閉スペクトラム障害の傾向があるといったところか。悩みの種がその生徒の特性に帰属しているなら、その範疇はカウンセラーの領域を超えている。
こんな時、雅子は生徒とその両親に精神科の受診を勧める。両親が自分の子どもに障害があると認めたくなくて断られることも多いが、重要なのは本人自身が学校に来れるようになることだ。