第32話 私の教え子を、不良品なんて呼ぶな!
凛のクラスから不登校が出たのは、学校が始まってから約2か月後のこと。
その生徒の名前は中村裕太。彼は言葉を選ばずに言うなら、周りから見て極めて平凡な生徒だった。
普通に授業に出て、課題提出率も軒並みだったので、特に心配はしていなかったのだ。凛は毎日彼の両親に電話をかけ続けているが、未だに進展はない。
彼自身が、なぜ学校に来たくないのかと言う理由を話してくれないと言うのだ。
「仕事が一段落したら、また電話をしてみよう。」、そう思って雑務に取り掛かる。
その時、職員室に何者かが入ってきた。教員たちが一斉に身構えて礼をする。
校長の今泉宗太郎である。
彼は凛の近くまで来て、わざとらしく大声で言葉を発した。
「園崎先生のクラスから不登校が出たそうですね。全く、最近の若いもんは子どもを甘やかしすぎる。クラスから不登校を出すのは教員側の怠惰です。」
そして、耳元で小声で囁く。
「不良品の教師と不良品の生徒、良くお似合いですよ。」
凛は思わず我を忘れて机を叩くと大声で怒鳴っていた。
「私の教え子を、不良品なんて呼ぶな!」
周りの教員たちが一斉に振り向く。
「これでもう終わりかな」、凛は心の中で思った。
校長に逆らえば、教師としての明るいキャリアを失うことは目に見えていたから。
でも、自分が侮辱されるならまだしも、教え子を侮辱されるのだけはどうしても許せなかった。教え子は教員にとって、自分のこともと同じくらい大切な存在だから。
「園崎先生、落ち着いてください。私はそんなことなど申しておりませんよ。ただ、不登校は甘やかしすぎると発生すると言ったのです。園崎先生の対応はまだまだ甘い。」
その時、何者かが横から口を挟んだ。教頭の立花直子である。
「今泉校長!あなたは本気でそのようなことを思ってらっしゃるのですか?だとしたら時代錯誤も甚だしい。不登校が発生するのは甘やかしではなく、学校側の責任。あなたのような老害がいるから不登校が増えるのです。」
「ちっ。うるさいな。仕事に集中させろよ!」、飯沼浩史が舌打ちする。
「この学校、どうなってんのよ。生徒たちの手本であらなきゃいけない教師が、職員室で怒鳴りあい?しかも言葉も下品だし。ありえない!」、丸山望は心の中でそう思った。
「立花教頭!あなたがそう思うのは勝手ですが、今、本校の校長はこの私です。実権は、すべてこの私が握っている。」
今泉校長は嫌らしい笑みを浮かべて職員室をあとにした。