第31話 パワー・ハラスメント
ある日、凛は校長室に呼び出された。
「失礼致します。」、ノックをして慎重に入室する。
学校と言う組織は閉鎖的な組織である。
年功序列、上下関係、意味不明な校則を厳守することを正義とする教師たち...
外部から見れば時代遅れに見える制度も少なくない。
「園崎君、君をここに呼び出したのは他でもない。1年3組の前期中間テストの成績。本校始まって以来の不出来だ。君はどう責任を取ってくれるのかね?」
「申し訳ありません。力不足で...」
「謝罪の言葉など聞いていない。」
自分の能力の無さを自覚して深々と頭を下げる凛に対して、今泉は衝撃の言葉を言い放つ。
「正直、あなたには全く期待していません。あのクラスは本校の格式と秩序を乱す出来損ない。出来損ないの教師にお似合いかと」
「校長!」
凛は我を忘れて叫んでいた。
「お言葉ですが、私のクラスは出来損ないではありません。未来ある子どもたちにそのようなことを言わないで頂きたい。」
「園崎先生」、今泉は諭すようにゆっくりと言った。
「平の分際で、校長であるこの私に逆らうのですか?」
「失礼ながら、校長の先ほどの発言は立派な失言かと存じます。」
「失言...失言ね」、今泉は嫌らしい笑みを浮かべる。
「私があなたのクラスの子どもを不用意に傷つけるような発言をした証拠はどこにもない。仮にあなたのクラスが出来損ないでないというなら、それを証明して見せなさい。次のテストで、5教科の平均を400にして見せるのです。」
「400?」
「そうです。出来損ないではないならできるでしょう?」
凛は黙って頷く。自分のクラスが出来損ないだと屈辱されて腹が立ったから。
1年3組は確かに荒れていて大変なクラスだけど、みんな根は良い子で、やればできる子たちなんだって証明して見せたい。
「もし平均点が400点を超えなかった時は、責任料として40万を払ってもらいます。良いですね?」
「校長...誠に失礼ながら...その発言は立派なパワハラかと...」
「パワハラね...私が君にそのような行為をした証拠でもあるのですか?校長室には携帯は持ち込めない。盗聴器もない。嘘をついているのはあなたの方ということになるでしょう。お金で支払えなければ、それ以外のもので報酬を払ってもらっても構いませんよ?」
凛は顔を顰める。
「何なのこの人?私のクラスが平均400を取るのが無理だと思ってわざと言ってるでしょ。絶対に次のテストでクラス全体の点数をあげてあのパワハラ校長を見返してやるんだから!」
心の中では闘志が燃え滾っていた。