第28話 学力危機
凛は、その日も大切な学年会議に出席していた。中間テストの結果報告である。
各クラスにおける各教科の平均点を発表する。
1組の結果は、国語85点、数学79点、理科77点、社会92点、英語82点である。
担任が飯沼なだけあって、社会の結果はかなり良い。他の教科も、それなりの平均点を取得している。
2組の結果は、国語86点、数学87点、理科86点、社会85点、英語88点である。
「数学の教師としては、数学はもう少し頑張ってほしかったけれど、仕方ないわね。まあうちのクラスは他の教科も結構できる子が多いわね。」と丸山望。
凛は、自分のクラスの結果を嫌々発表する。
国語32点、数学31点、理科8点、社会16点、英語23点である。
中学校に入って最初のテストで平均を合計しても150にすら満たないのは前代未聞の話である。
このままでは、学力の危機である。
4組の結果も、国語80点、数学79点、理科90点、社会81点、英語85点であり、基礎学力がある生徒が多いという印象だった。
1年3組の学力を底上げするための対策会議が始まった。
「園崎先生、3組の生徒さんは、俺以外の授業を聞いてくれるか?」と飯沼浩史。
「いえ、全く。飯沼先生以外の先生方の授業は全然聞いてくれません。特にテスト前の授業はいつも以上に騒がしくてとても授業どころでは...」
凛は正直に答えた。
その時、2組の担任の丸山望が呟いた。
「可哀そうに...」
思わず彼女の方を見る。
「園崎先生、どうして生徒たちがテスト前に騒がしくなったか分かる?」
凛は静かに首を振る。
「それはおそらく、不安だったからよ。小学校の時と環境が変わって、親しかった友だちとも離れて、生徒たちは不安を抱えながらここに入学した。そんな状態で、初めてのテストを受けなきゃいけないってなったら、プレッシャーにもなるよ。おそらく生徒たちはね、その堪らない不安をどうにかしたくて、授業中に騒がしくしたり、あるいはクラスメートをいじめたりしてるの。だから、まずはその不安を取り除いてあげなきゃ。」
凛は、彼女の言葉に妙に納得した。授業中も荒れていることが多くて、騒がしいクラスだけれど、彼らがなぜそうするのかと言うことは考えたことがなかった。
全く知らない環境での、新たな生活への不安。それが、彼らの不安を駆り立て、教師への反抗として現われている。この説はとても理に適っているように思えた。そうと分かれば、さっそく対策を立て始めよう!