第24話 友の存在
そんな真美の苦悩に、終止符を打つ決定打が存在した。
それは小林侑李という存在。仮に沙織を痛めつけることができたとしても、悪事がバレる可能性は多分にある。
そうなった場合、彼女はすべての行いを自分がしたことにすると言った。
それはすなわち、彼女が人世の中の健全なルートから外れることを意味する。
そうなれば彼女とは二度と会えないかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ。
浅野真美は、毎日ずっと一緒にいたいくらい侑李のことが好きだった。
彼女といると楽しいし、嫌なことをすべて忘れられるような気がした。
「もしも、彼女を失えば、私は今の輝いている毎日を失うことになるかもしれない。」、そんな気がした。
傍目から見れば真美と侑李は、勉強をせず、部活に励むわけでもなく、反社会的な行動を繰り返している不良的存在。
ただの怠惰に見えるかもしれない。
けれど、真美にとっては、そんなくだらない毎日が、侑李と共に過ごせる時間が、かけがえのないものだった。
真美は心の中で最大限の幸福を感じるとともに、大きな大きな不安をも抱えていた。
それは、この幸せがいつかは終わってしまうのではないかと言う不安である。
仮に高校や大学まで進学できたとしても、違う進路を選んだ場合、侑李とは離れ離れになってしまうだろう。そのうち、侑李は自分が手が届かない場所に行ってしまうかもしれない。それなら、今という素晴らしい時間を、存分に楽しみたい。
それに、もし彼女が遠くに行ってしまうことになっても、彼女には幸せでいて欲しい。
犯罪者に身を落とすような、不幸な人生を送って欲しくない...
そう考えると、いくら沙織のことが気に食わなくても、彼女を貶めるような行動に出るのは愚策に思えた。
世の中には気に食わない人は何人もいるけれど、自分の味方になってくれる掛け替えのない存在も身近にいるではないか。
「青い鳥」という言葉を思い出す。
「そう。まさに侑李は青い鳥。私が忘れかけていた身近にある幸福の象徴。」
真美は心の中で呟いた。
こうして彼女は沙織の大切なものを盗難するのは辞めようという結論に至った。
幼少期から虐待を受けてきた彼女は、倫理観が少し歪んでいた。しかし、社会的良識が分かっていないというわけではなかった。金子沙織への嫌悪感と社会的良識、2つの壁で板挟みになっていた彼女の葛藤。それに終止符を打ったのが、まさに大親友と呼べる存在、小林侑李の力だった。友の存在は、時としてとてつもなく大きいのだ。