第18話 不良少女
山川裕也は、一見すると教師にたてつく問題がある生徒。しかし、彼の行動には、彼なりの信念があった。
それと対極に位置するのが、浅野真美と言う少女。日頃の彼女は品行方正で、中学生の模範になるような生徒に見える。しかし、彼女には、表には出していない裏の顔があった。
信号無視、いじめ、飲酒... 人が見ていないところで不良だと言われても文句が言えない行動を、繰り返していた。
特に、最近、彼女を苛立たせているのが、金子沙織と言う女。
自分も田辺日和をいじめていた主犯格の1人な癖に、被害者ぶりやがって。しかも、その日和という女とかなり仲良くなっているというのだから、呆れたものだ。あんな根暗な女のどこが良いのだろう。真美と侑李は彼女たちをいじめる計画を立てているところだった。
そのための第一弾として、まずは斎藤るなを仲間に引き込もうとしていた。るなは自分に対して好意を寄せているありさのことを嫌っており、前々からその愚痴を真美たちにぶつけていたからである。
るなさえ仲間にしてしまえば、沙織たちなんて、敵ではない。
真美はそう思っていた。
では、普段品行方正でいる彼女の裏の顔を不良少女たらしめる要因は、何か。それは偏に家庭環境と言う言葉に集約されている。
父親は仕事が上手くいかず、アル中になり、1人娘である真美に対して日常的に暴力を振るうようになった、
彼の拳は、まだ幼かった彼女に、身体的、そして何より精神的に大きなダメージを与えた。自分より力の強い者に全く抵抗できない無力感。それが、彼女の人格を歪ませた。
彼女が飲酒を始めたのは、そんな現実から逃避して気を紛らわせたかったためである。
そして、彼女は、今まさに、社会的な枠組みの中のある一線を越えた行為を働こうとしていた。
コンビニに陳列されている菓子に無意識のうちに手が伸びた。
その時、何者かが彼女の腕を掴んだ。
「真美、それは流石にやばいって。」
「何よ、侑李。じゃましないでよ。」
小林侑李は、真美をじっと見つめて言った。
「バレたら、洒落にならないわよ。それ、戻して。それか、ちゃんとお金を払って買って。」
教員に対して、常に反抗し、凛に「魔性の女」と思われていた、小林侑李と言う少女も思いのほか常識人であった。
「ちっ。分かったよ。侑李がそう言うなら...」
真美は静かに、商品をもとの場所に戻した。
父親からの虐待の影響によって、自分の殻に閉じこもり、人の目を気にしながら生きてきた彼女にとって、本当の気持ちをぶつけられる存在は、最早侑李だけだった。