第17話 何のために勉強するのか
何のために、勉強するのか。それは生きていれば、誰もが考えたことがあるであろう根源的な問い。
この疑問を山川裕也は、真正面から担任の園崎凛にぶつけたのである。
凛は正直答えに困った。
「正解がない問いね。」という言葉がふと口から洩れる。
「先生でも分からないことがあるのか?」
「当たり前でしょ、人間なんだから。人生なんてわからないことばかりよ。」
「じゃあさ、先生はどうして国語の先生になろうと思ったんだ?」
「それは、国語が好きだったから。昔の人の文章が世代を超えてこの時代まで受け継がれている。それはきっと現代にも通じるものがあるから。それって凄いことだと思わない?」
「俺には国語のことは良くわかんねーけど、確かに。」、そう言って頷く。
「国語の授業はつまんねーけど、授業をしてる時の先生楽しそうだもんな。」、そう言って裕也が微笑む。爽やかな笑顔である。
「つまらないは余計よ。」と心の中で突っ込みを言いながら、自分なりの答えを提示する。
「その問いに対して、模範解答のような答えはないけど」
「ないけど?」
「私なりに答えを言うとするなら、見識を広げることかな。色んな分野に触れることで、今まで知らなかった素晴らしい世界と出会えるかもしれないし。哲学とか勉強してみると良いかもよ。」、ふとそんな言葉が漏れた。
「哲学?」、裕也が凛を見返す。
「哲学ってのはね、人生・世界、事物の根源のあり方・原理を、理性によって求めようとする学問のことでね、まあ、言ってみればその人が経験からつくりあげた人生観を学ぶことかな。」
「へぇ。そんな面白い教科がこの世にあるのか。具体的には何を考えるの?」
「例えば、人間とは何か、世界とは何か、真理とは何か、倫理とは何か、愛とは何か、そういうあらゆる根源的な問いを深く考えるんだよ。」
「先生よー、なんで生徒は教員に対して敬語を使うんだ?」
「それはね、目上の人に対して敬う気持ちを表すためよ。」
「もし尊敬してない人だったら?年上の人の方が偉いって必ず言える?」
「少なくとも、先生はある程度は生徒に尊敬されるような人間性じゃなきゃダメね。もし生徒から尊敬されてないなら、それはその先生の勉強不足。」
彼の問いに返して、凛は力強く言った。
そして、弱弱しく続ける。
「私も、もっと、勉強しなきゃ、ね。」
前の言葉は自戒の意味を込めて言った側面もある。
「自分は学級経営も授業も、教員としてはまだまだ未熟、もっと頑張らなきゃ...」、凛は心の中で呟く。
その時、裕也が凛を真剣な瞳で見つめて言った。
「分かったよ、俺、今はまだ難しいかもだけど、敬語使えるようになるように、頑張ってみる!」




