第15話 サッカー少年
その日、凛はいつものように教室で事務作業をしながら、息抜きにふと外を眺めた。
眩しい日差しの中で、サッカー部が懸命に活動に励んでいる。
その中でもひと際目を引く存在がいた。
技術、スピード、そしてチームをまとめるリーダーシップ...
まさにサッカーに選ばれたような存在。
少なくともこのチームの中では、彼の強さは際立っている、と凛は分かった。その競技自体に詳しくなくても、プレイが上手いかどうかはなんとなくわかってしまうものである。
目を輝かせながら額に眩しい汗をかいている、彼は、凛の教え子の1人である山川裕也。
「彼には、こんな一面もあるのか」、と凛は嬉しくなった。
人には様々な面がある。良い面も、悪い面も、素敵なところも醜いところも...
そう。それが人間と言う生き物の面白いところだ。
彼もまたその1人。
1つは、教員に反抗する、一般論で言うところの問題児としての側面。もう1つはサッカーに熱中するスポーツ少年。
「対象を評価する際に、一部の目立つ特徴に引きづられて、全体の評価が歪んでしまう心理現象」をハロー効果という。
山川裕也の場合であれば、授業中の言動に問題があるからと言って、単純にただの問題児だと決めつけてはならないのだ。
勉強が嫌いな気持ちと、やった方が将来に立ちそうだなという気持ちが複雑に絡まって、葛藤を覚えた結果、どうしたら良いかわからずに反抗的な態度を取っているという可能性もあるのだから。
人間を1つの側面で判断しないというのは思っている以上に難しい。それは教員にとっても同じことである。
「こんなことしてる場合じゃないよね。仕事、仕事!」
凛は微笑んで事務作業に戻った。
山川裕也は勉強が嫌いだった。将来役に立つと言われても、あんなにつまらないものをなぜ一生懸命やらなければいけないのか。そう考えると勉強が好きな、主要5教科の教員たちには嫌悪感すら覚えた。一方、家庭科、音楽、図工、体育など、主要教科以外の科目は嫌いと言うわけではなかった。それゆえ、それらの担当の教員にはあまり反抗しなかった。中でも、一番好きなのが体育。身体を動かすのが好き、汗を流すのが好き、彼が運動に熱中するのはただそれだけの理由でも十分だった。体育に関しては強い拘りがあった。そのためサッカー部の顧問である後藤敦には全力で反発した。だが、これは嫌悪感からの反抗ではない。むしろ元プロサッカー選手であった彼のことを裕也は尊敬している。反抗には2種類ある、彼はそう思っていた。