第132話 恋愛コンプレックス
杉田天使の他にも、新学期にメンタルの不調を感じている者がいた。それが、山田春奈。
彼女の悩みの根本的な原因は、一言で言えば恋愛コンプレックス。
好きだった山川裕也を、小林侑李に取られたような気がして、屈辱を感じていた。
「私、侑李に比べて可愛くもないし、性格が明るい方でもないし、勉強もできなければ、運動も駄目駄目...」
そう思えば思うほど切ない虚無感が押し寄せた。自分の心の中で勝手に侑李という存在を、脅威だと認識し、彼女と自分を比較することによって、自己肯定感が極端に下がっていく。
「侑李にあるものが、私には何もないんだ... 一生彼女のレベルには追い付けずに、つまらない人生を送るんだろうな...」
彼女の心は毎日こんなことを考えるほどに病んでいたのだ。
3学期の初日も、溜息しか出なかった。休み時間に、教室の隅で本を読んでいると、後ろから声をかけられた。
「春奈、どうしたのよ。そんなに暗い顔してると女の子としての価値が台無しよ。」
恐らく彼女自身を励まそうとして言ったこの斎藤るなの言葉が、彼女の心を深く傷つけた。
「私に女の子としての勝ちなんてないもの。モテる人には分からないわよ。」
ついカッとなって、棘のある口調で言い返した。
「はぁ、あんたねぇ。私は確かにそこそこモテるけどね、色んなことで苦労もしてるのよ。」
「大して可愛くない人の苦労も知らない癖に、良くもそんなことが言えるわね。あんたの苦労何て虫けら以下よ。」
「はぁ?何ですって。そっちこそ可愛くなるための努力を少しはしたわけ?何の努力もしてないのに愚痴ばかり言うなんて、恥ずかしくないのかしら。」
口は禍の元である。2人の何気ない口論は、激しい口論へと発展した。
そこへ、彼氏持ち美少女である小林侑李が止めに入る。
「2人とも辞めなよ。どっちも可愛いんだからそれで良いじゃん。」
けれど、彼女のこの発言は燃え上がった火に油を注ぐようなものだった。
というのも春奈は侑李に嫉妬していたし、るなは侑李を自分のライバルとして認識していたからだ。そして、るなに関しては、侑李と言う女が自分より先に恋人を作ったという事実も変に意識していた。
「侑李に言われても説得力ないよ。だって、侑李可愛いじゃん...」
春奈が呆れたように言った。
「侑李、あんたいつの間に良い子ちゃんになったのよ。前はもっと尖ってて生意気だった癖に。」とるな。
「ま、まぁまぁ、2人とも少し落ち着いてよ。」
侑李は少し困った様子で、静かにそう言った。