第131話 新学期!
今日はいよいよ新学期!
3学期も上手く学級運営ができるのかという心配もあるが、やはり生徒たちと再び会える楽しみの方が大きい。
水野真理、九条慶翔、小林侑李、山川裕也、田中直人、秋田健、加藤大樹、久保田和樹...
慣れ親しんだ顔の生徒たちが、徐々に教室にやってくる。
朝の会まで、残り5分となった。まだ来ていない生徒は、森本猛、植松博、吉田健太郎、杉田天使の4人だ。
男子3人に関しては、いつもギリギリ学校に来るメンバーなので、あまり心配はしていない。問題は、杉田天使。いつも早めに学校に来る彼女が、この時間まで到着しないことは珍しい。それに、牛島佐紀と言う生徒と彼女との間には何らかの問題があるということは既に把握済みだ。
実際、彼女はある種の問題を抱えていた。休暇中の宿題は何とか終えたものの、憂鬱な気持ちは変わらなかった。実際のところ、あの事件があってから心身の不調が続いていたのだ。
"あの事件"というのは、彼女が牛島佐紀らにいじめにあった事件のことを指す。だが、彼女の心を最も傷つけたのはいじめそのものよりも、いじめられた理由にあった。
この名前のせいで、こんなに酷い目に遭っていると思うと、何ともやるせない気持ちになった。
「私だって、この名前を付けて欲しかったわけじゃないのに...」
毎日そのことばかりを考えるようになっていた。学校生活の中でクラスメートから下の名前を呼ばれると思うと、虚無感が押し寄せた。
とはいえ、学校に行かないわけにもいかないので、しぶしぶ登校した。恐る恐る学校に入る。始業時間ギリギリではあったけれど、教室はいつも通りだった。
「おはよう、天使ちゃん。」
突然、侑李に声をかけられた。
「あ、うん。おはよ。」
彼女は以前の暗い面影はほとんどなく、生き生きとした明るい表情をしていた。きっと、悪気はないんだと思う。けれど、彼女が自分の名前を呼んだことに、天使は深く傷付いた。変わった名前は、時として人の人生を狂わすこともある。それは、天使とて例外ではないだろう。
教師である私は、杉田天使という生徒のことを心配していた。新学期の彼女は、どことなく悩みを抱えていそうな気がしたから。学校にギリギリの時間で着くことも珍しいし、何よりも表情が曇っていたから。牛島佐紀との過去のトラブルを気にしているのか、あるいは個人的な悩みを抱えているのだろう。
例えば、自分の名前のことを気にしている、というように...
少し変わった名前である生徒が、いじめられたりからかわれたりするようなことはあってはならない。私は常にこのことを意識している。