第13話 寡黙な美少女
その時、1人の生徒が手を挙げた。
物珍しいものを見るようなクラスメイトの視線が集中する。
彼女の名前は早乙女梨華。タイプは違うけれど、あの斎藤るなにも引けを取らない美少女だ。
斎藤るなが外国人風の美少女なら、彼女は日本人的なお姫様系美少女である。
だが、彼女はクラスの中であまり目立ってはいなかった。
理由ははっきりしている。
それは彼女が大人しく、引っ込み思案で、かつ寡黙な性格だったからだ。
そして自己肯定感が低く、自分に自信がない。
一方、教室に落ちているゴミを拾ったり、汚れているところを掃除したり、本棚を整えたりと、日頃の行動はとても良いのである。
凛は、この前の面談の時、彼女から相談を受けたことを思い出した。
それは、一言で言えば、友だちの作り方が分からないというものだった。
クラスメートと仲良くなりたいし、一緒に遊びたいけど、自分から声をかける勇気はないというのだ。休み時間には基本的に本を読んで過ごしているため、クラスメートも彼女に話しかけづらいのだろう。
他にそのような過ごし方をしている生徒と言えば田辺日和がいるが、彼女は一人で過ごす時間もさほど苦にはならないタイプに見受けられる。
一方、梨華は気を紛らわすために本を読んでいる側面がある。
クラスメートに自分から声をかける勇気がなくて、教室の隅でその場凌ぎの読書をしている自分が好きになれないそうなのだ。
凛は彼女に対して、焦らずにできることを少しずつやること、そして他人への思いやりが大切だというアドバイスをした。
だが、そのアドバイスは彼女のためになっているのかずっと不安だった。
仮に自分のアドバイスによって、生徒が悪い方向に進んでしまったら、どう責任を取れば良いのだろう。
水野真理が、梨華に発言を促したところでちょうどチャイムが鳴った。
「ごめんね。チャイムなっちゃったから一旦話し合いは終わりにします。梨華さんの意見は次の時間に言って貰う形でも大丈夫?どうしても今言いたいなら言っちゃっても良いけど。」
「次の時間で大丈夫です。」
早乙女梨華は凛の問いかけに対して決して大きくはない声で、それでもはっきりと答えた。
凛は生徒たちにバレないように心の中で大きく安堵の息をついた。
どうやら面談での助言は、彼女を、少なくとも今のところは良い方向に導いているようだ。
寡黙で発言をしなかった少女が、クラス全体の前で発言しようとしたのだから。
彼女には、良いところがたくさんある。
「自分を卑下することなく、これからどんどん長所を伸ばしていってほしい」、と凛は心底思うのだった。