第123話 買い出し!
私はその日、近くのスーパーマーケットに買い出しに来ていた。
学校にいる時の私は、職務を全うするため100%教員として振舞っているけれど、プライベートでは割とリラックスしている。
もちろん、1人の大人としての自覚を持って、子どもに見られても恥ずかしくない行動を心掛けてはいる。
けれど、少なくとも学校に入る時よりはその意識が低いこともまた事実だ。
今日も寒いから、鍋を作ろうと思う。
私は一人暮らしだから、自分で食べたいものを作ることができるのだ。
白菜 、 玉ねぎ、大根など、必要な野菜を買い物かごに入れる。
その時、後ろから声をかけられた。
「園崎先生じゃないですか。こんなとこで会うなんて奇遇っすねー。」
驚いて振り向くと、桐谷蒼の姿がそこにあった。隣には三宅拓哉の姿もある。
2人は、買い物かごを手にしている。
「桐谷君と、三宅君じゃない。」
「先生は何してるんですか?こんなとこで。」
桐谷が純粋な疑問をぶつける。
「見ての通り買い物だよ。」
「そっか、そうですよね。大人になると買い物も料理も1にんでしなきゃですもんね~。大変だ。」
神妙な面持ちで1人で勝手に納得したように頷く葵。
「桐谷君たちも買い物?」
私の質問に彼は元気よく答えた。
「そうなんすよ。親に頼まれちゃって。全く人使いが荒くて困っちゃいますよね~。」
「そのくらい文句とか言わずにしてやれよ。いつもお世話になってんだからよー。」と拓哉。
2人を見ていると、文化祭での漫才を思い出す。ボケと突っ込みのバランスが取れた非常に良いコンビだった。
突然、葵が真剣な顔になって尋ねた。
「先生よ~、俺もいつかは自立できるのかな~? 料理とか、洗濯とか、仕事とか、全部1人でこなせるか不安だぜ。」
「きっと大丈夫よ。今はまだ難しいかもだけど、少しずつ慣れてけばできるようになるわ。」
「先生、お時間を取ってしまってすみません。俺たちはこの辺で失礼します。」
そう言うと、葵は拓哉と共にレジに並んだ。
私は一安心して、買い物の続きをした。
教え子との遭遇は、予想外の出来事だったが、無事に乗り切れて良かった。対応によっては、学校での私のイメージが崩れてしまいかねないから。こういうところも教員という職業の難しさだと思う。
買い物を終えて、夕日が沈む美しい街並みの中、葵と拓哉は歩調を合わせていた。
「なぁ、拓哉。園崎先生って、案外凄い人なのかもな。」
葵のその言葉に、拓哉は暫く考え込んでから頷いた。
「ああ。俺もそう思う。立派な大人だよな。」