第122話 光と影
世の中には、光もあれば影もある。晴れて教員になって充実した人生を送っている者がいる一方、様々な理由により教員になれず、地獄のような人生を送る者もいる。
俺もその一人だ。俺の名は野口大和。教員を、心の底から憎んでいる。この世で一番許せない人間は、松山由里。当時柴ヶ谷中学校の校長だった彼女は、俺を最大限侮辱した。
当時、俺は同級生の井上美咲と同時期に教育実習に行った。教育実習とは、教員を目指す大学の学生が学校現場で実習を行い、大学で学んだ知識や理論を実践的に検証し、教員の資質能力を養う必須の機会のことである。
そこでは失敗ばかりだった。必要な書類を忘れてしまったり、他の先生方とのコミュニケーションが上手くいかなかったり。
様々なことが重なり落ち込んでいる中、松山由里はこんなことを言いやがったのだ。
「教員になるにはコミュニケーション能力が必要。野口さんのような人とのコミュニケーションがままならない無能には教員は無理。反対に、美咲さんは素晴らしいです。教員に向いていると思います。」
言いたいことは分かるが、俺は深く傷付いた。
前からコンプレックスに思っていたコミュニケーションの苦手さを指摘され、プライドをズタズタにされた。
それからは自傷行為が止まらなくなり、自己肯定感が下がったことによって希死念慮が発生。自殺未遂を図り、身体には後遺症が残った。左目が見えなくなったのだ。あいつさえいなければ、こんなことにはならなかったのに...
俺の人生をこんな目に遭わせたクソ教員を俺は絶対許さない。例え犯罪者になってでも彼女に復讐してやる。その一心だけで今日まで生きてきた。そして、俺の怒りの矛先は筋違いなところにも向いている。
コミュニケーションが得意で、教員になった井上美咲が堪らなく憎い。
「どうしてあいつにできることが俺にはできないんだ。」と思うと、苦しくて胸が押しつぶされそうになる。
今日もネットで、松山由里の行方を追っているが、未だに彼女に関する情報は得られない。いつものように虚無の時間を過ごして眠りに入るのだった。
一方、松山由里は校長としての権力をどう取り戻すかということに頭を巡らせていた。丸山望に脅されてからというもの、実質彼女が事実上の校長となり、自分が操り人形でしかないことを不満に思っていたのだ。
「どんな手を使ってでも校長に返り咲いてやる。いつまでも調子に乗るなよガキが。徹底的にいじめ抜いてやるから覚悟しな。」
彼女は心の中で呟いた。