第12話 微かな希望
対人関係ゲームとは、人と人とを心理的につなぐゲーム。
人と触れ合う多くのレクリエーションはこれに該当する。
凛は迷った挙句、人間知恵の輪、集団絵画を選択した。共同作業を試みる、あるいは共同で何かを作り上げることによって、クラスメート同士の距離が少しでも縮まれば良いと考えたからだ。
まずは、集団知恵の輪。山川裕也や、授業妨害四天王たちも、この遊びには集中して取り組んでいた。これには、教師である凛の方が少しばかり面食らっていた。
「知恵の輪なんて、そんな子どもじみたことやるのかよ。」、「俺、あいつとだけは手、繋ぎたくねーよ。」と言ったようにもう少し反抗的な態度を取られるのではないかと想定していたから。
次は、集団絵画。こちらはクラスの団結力が試される。凛は話し合いを生徒たちの主体性に任せて、様子を見守っていた。
「みんな、ちょっと聞いてくれるかな。まず、最初に書きたい絵の案がある人、手をあげて。」
金子沙織が挙手する。
「私、海の絵が良いと思います。」
彼女に対抗して浅野真美が勢いよく挙手する。
「海も良いけど、私は山が良いと思うな。」
真美と沙織が一瞬だけ視線を合わせる。
静かな対抗心が燃え滾っていた。
「はい、俺は川を流れる紅葉の絵が良いと思う。」と山川裕也。
「僕は学校の絵でも良いと思うな。」、「あたしは青空が描きたい。」
他の生徒からも様々な意見が出た。意見は思わぬ広がりを見せ、収拾がつかなくなっていく。
「これじゃあ意見がまとまることはないかもな」、そう思った一方、凛は胸の奥に僅かな希望の灯を感じていた。
そして、目の前の生徒たちの光景に多少心を打たれた。
「できている、まともな話し合いが、できている...」
今まではクラスメート同士が不仲でまともな話し合いなどできたことはなかった。
けれど、今回は、違う意見での対立があるものの、学級委員の水野の話をしっかり聞いて、話を進めることができている。これは大きな前進だ。
「じゃあ、今出た意見で、平等に多数決を取ろうと思うんだけど、」
水野がそう言ったところで山川裕也がきっぱり、そしてはっきり言った。
「やだ、多数決はやだ。確かに一番人気な案が選ばれるんだから合理的ではあるけど、選ばれなかった案の人は納得しないかもしれないぜ。」
クラス内でざわめきが起こる。山川はいつも教師に反抗するものの、クラスの話し合いの場で自分の意見を言ったことは今までなかったのだ。
凛は時間を気にしながらも、もう少しだけクラスの様子を見守ることにした。