第119話 井上美月の独白
私、井上美月。京東県浜森中学校に通う中学1年生。
クラスでは、牛島佐紀たちと仲良くさせて貰っている。私は幼い頃から大人しい性格で、自ら積極的に前に出るようなタイプではなかった。小学校時代のそんな私に話しかけてくれたのは、佐紀だった。彼女も小学生の時は私と同じような泣き虫だったけれど、いつの間にかそれを克服し、クラスの中でも一目置かれる存在になっていた。
彼女の傍にいれば、彼女が私のことを守ってくれる、そんな安心感があった。
中学に入学した初期の頃は、いじめなど劣悪な行為も行っていたけれど、佐紀たちのグループの中で過ごしている時間はとても楽しかった。
佐紀だけじゃない。桜も真由もまどか、光里、それに花実も、私にとっての大切な友達だ。
だから、彼女たちに音楽が苦手であることを責められたことはとても辛かった。
それから、佐紀たちとは少し距離を置いていたが、その期間の孤独感とでも言うべき心の空白は増えていった。
私は、寂しがりで、1人じゃ生きていけないとても情けない、弱い人間だ。
でも、できることなら彼女たちと一緒に楽しい中学生活を送りたい。
私はようやく覚悟を決めた。
放課後、急いで音楽室に向かう。ドアを開けると、彼女たちは丁度練習に励んでいるところだった。
ボーカルの佐紀、ギターを持っている真由とドラムを叩いているまどか、ベース役の桜、キーボード役の美月、パーカションの花実の姿が目に映る。
彼女たちは既に軽音部に馴染んでいて、私は強烈な疎外感を感じた。私は逃げるようにその場を去ろうとする。
その時、後ろから肩を掴まれた。
「ねぇ、あんた何逃げようとしてんのよ?」
「佐紀...」
「ここに何しに来たの?」
「あの、その...」
動揺する私。
「正直に言いなさいよ。」、佐紀のきつめの言い方に観念する。
「その、あの、私も仲間に入れてもらいたくて。その、みんなが軽音部に入ってから疎外感を感じてて、その、あの...」
「それで、あんたはどうしたいの?」
「その、軽音部に入れてもらいたいです。テスト終わってからでも良いから...」
佐紀は溜息をついた。
「はぁ。あんたほんと情けないわね。仕方ないわね、入れてあげる。」
「...あ、ありがと...」
佐紀は美月の泣きそうな表情を見て、少し可哀そうになってしまったのである。それに、美月は苦手なことに向き合う覚悟を決めてくれた。だからこそ、全力でサポートしようと思う。
「言っとくけど、私、いや、私たちは厳しいからね。」
佐紀のその言葉を聞いて、私は幸せを感じたのだった。