第116話 質疑応答!
桐谷 翔真の講演が終わると、質問タイムに移る。
山川裕也が真っ先に手を挙げた。
マイクを持って質問をする。
「本日は貴重なお話をありがとうございました。桐谷さんにお話しして頂いたことはサッカーだけではなく、今後の人生にも役立てられる生きていく上でのエッセンスが詰まっていると感じました。そこで、質問なのですが、私は日頃苦手な勉強にやる気が出なかったりですとか、あるいは嫌なことがあった時に、落ち込んでしまったりして時間を浪費してしまうことが多いのですが、そのような時の気持ちの切り替え方ですとか、モチベーションの保ち方の秘訣はございますでしょうか。」
「とても良い質問ですね!皆さんに質問をして頂いたら、こう答えようと思って、事前に考えてきたんですよ。良い言葉でしょ、"とても良い質問ですね!"って。」
彼の言葉に会場が笑いに包まれる。やはり一流のサッカー選手は、専門分野のサッカーだけでなくトークスキルや笑いの取り方も一流なのだ。
「改めまして、質問ありがとうございます。私もあったんですよね、学生時代勉強に対してやる気が出なかったりとか、音楽の練習をする気になれなかったりとか。当時の僕にはサッカーが全てでしたから。人生も、サッカーと似ている部分があると思うんです。例えば、試合に負けたら落ち込みますよね。でも、ただ負けて悔しいじゃ進歩がない。結果だけならジャンケンで勝敗を決めれば良いわけですから。もちろん結果も重要なことです。結果を残せなければ、プロの世界では生き残れませんから。だけど、それ以上に重要なのは過程、つまりプロセスです。その試合の何が良くて何が悪かったのか、どうして負けてしまったのか、そのようなことを考え、改善していくことが、強くなるための秘訣です。人生もこれと同じです。失敗は、今後自分が成長するための糧と捉えれば良い。」
私は思わず桐谷 翔真の言葉に聞き入ってしまった。やはり、トップアスリートとして活躍する彼は、何かが違う。精神力、忍耐力、コミュニケーション能力、そして運など様々な要素を持っている。そして、彼の傍にいるだけで、自分も大物になれそうな気がしてくる。結局、桐谷 翔真は10個ほどの質問に答えたが、そのどれも人生の本質を突き詰めたような素晴らしい回答だった。
彼のスムーズな質疑応答に見惚れながらも、私は同時に危機感をも覚えていた。
「桐谷 翔真さんは、私と同じくらいの年齢の筈なのに、凄まじい努力をしていらっしゃる。私も自分なりに努力をし続けてきたつもりだったけど、まだまだ全然だな。もっともっと頑張らなきゃ!」
心の中でそう呟いた。