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中学教師園崎凛  作者: finalphase
第2章 中学1年生2学期編
111/129

第111話 事後学習

 忘れ物チェックを済ませると、バスに乗って学校へ。


生徒たちの多くは疲れていて、いつもより静かだった。


斎藤るなはいつの間にか無意識のうちに熟睡してしまい、隣の秋田健の肩に寄りかかった。


健は動揺しつつも、彼女を起こさないように心掛けた。


学校にだいぶ近づいた頃、るなが静かに目を開けた。


自分の身体が健の身体に寄りかかっていたことに気づいて、慌てて飛び起きる。


「ちょっと、あんた、その見てたの?」


黙って頷く健。


「どうして言ってくれなかったのよ。忘れて、忘れて忘れて。」


「あぁ。俺は何も見てない。」


後ろから、田中直人が突っ込みを入れる。


「お前ら、仲良いな。いっそ付き合っちゃえば良いのに。」


「俺と斎藤さんはそんなんじゃないって。」


「はぁ、何言ってんのよ。そんなんじゃないし。」


健とるなが同時にそれを否定する。それ以降2人は何も話さなかった。


 学校に到着すると、終わりの会をし、宿題を出して生徒たちを下校させる。


宿題の内容は、校外学習で学んだこと。いわば事後学習だ。1週間後、生徒たちの提出した作文を読み、丁寧に感想を書いていく。


名簿順だから、最初は相川春樹の作文を読む。


「地域の歴史に触れて学んだ一日 〜校外学習の感想〜


                  1年3組1番 相川春樹


10月23日の火曜日、僕たちは校外学習で市立歴史博物館とその周辺の文化財施設を見学しました。朝8時30分に学校に集合し、健康チェックや持ち物の確認をしたあと、先生から今日の予定や注意事項の説明を受け、バスで出発しました。移動中のバスの中では、友達と話しながらも、どんなことを学べるのかという期待で胸がふくらみました。


 最初に訪れたのは市立歴史博物館でした。入館前にマナーについての説明があり、それを守りながら展示室へ入りました。職員の方が、この地域の歴史についてわかりやすく説明してくださいました。特に印象に残ったのは、縄文時代の土器の展示です。3000年前の人々がどのような生活をしていたのかを想像すると、現代との違いに驚かされました。展示されていた土器や道具は、実際にこの地域で発掘されたものだと聞き、自分たちが暮らしている場所にもそんな長い歴史があるのだと感動しました。


 また、江戸時代にこの地域が宿場町として栄えていたという話もとても興味深かったです。古地図や旅人の日記を見ることで、昔の人の暮らしや当時の交通手段などを具体的にイメージすることができました。グループごとの見学では、ワークシートに沿ってクイズに答えたり、調べたりしながら、ただ展示を「見る」だけでなく、「学ぶ」ことの楽しさを実感することができました。


 次に訪れた古民家では、150年前の農家の暮らしぶりを知ることができました。茅葺き屋根や囲炉裏、昔の農具など、どれも初めて見るものばかりでした。囲炉裏の煙が虫よけの役割も果たしていたという話を聞いて、昔の人の知恵にとても感心しました。実際に石臼や火打石に触れる体験もできて、教科書だけではわからないリアルな歴史を感じることができました。


 その後の城跡と史跡公園の散策では、戦国時代の武将が築いたというお城の跡を見学しました。石垣や堀の跡から、当時の防御の工夫がよくわかりました。高台にある展望スペースでは、実際に町を見渡してみて、「この場所に城を建てた理由」がなんとなく理解できた気がしました。自然の中を歩きながら、歴史を体感できる貴重な時間になりました。


 お昼は芝生広場でお弁当を食べました。友達とおしゃべりしながらの食事はとても楽しく、自由時間には広場で少し体を動かしてリフレッシュできました。午後のまとめ学習では、グループごとに今日の学びを整理し、「一番印象に残ったこと」などを話し合いました。僕の班では、古民家での体験を挙げる人が多く、みんなが実際に「見て」「触れて」「感じた」ことに興味を持っていたことが伝わってきました。


 今回の校外学習を通して、普段の教室では得られない多くの学びがありました。自分が住んでいる地域の歴史について深く知ることができたことや、昔の人々の生活に触れることで、今の暮らしのありがたさにも気づくことができました。この貴重な経験を、これからの学習にも生かしていきたいと思います。」


多くのことを学んだ様子が伺えて、とても嬉しい。私は力を込めてコメントを返す。


「校外学習の感想文を読ませてもらいました。とても丁寧に、そして一つ一つの体験を大切に思い出しながら書いてくれていることが、文章からしっかりと伝わってきました。


読みながら、相川君がその日を通して感じた「学ぶことの楽しさ」や、「歴史を身近に感じる驚きと感動」に、私もあらためてこの学習の意味を感じさせてもらいました。特に、「見る」だけでなく「学ぶ」ことの楽しさを実感できたという一文は、まさに今回のねらいそのものであり、そこに自分の言葉でしっかりと気づけていたことが素晴らしいです。


縄文時代の土器を見たときの感動、古民家で実際に触れた体験から得たリアルな学び、城跡で感じた戦国時代の知恵――それらを一つずつ丁寧に言葉にしてくれたことで、読んでいる私にもその場の空気が伝わってくるようでした。


また、友達と一緒に過ごしたお昼の時間やグループ活動についても、楽しさと協力することの大切さが自然と文章ににじみ出ていて、とても温かい気持ちになりました。


最後の「今の暮らしのありがたさにも気づくことができました」という言葉には、日々の学習がただの知識ではなく、生活や心のあり方にもつながっているという深い理解を感じます。そんな視点を持てる相川君を、とても頼もしく感じました。


これからも、こうした「体験から学び取る力」を大切に、いろいろなことに興味を持ち、自分の言葉で表現していってくださいね。心がこもった、素晴らしい感想文をありがとう。」


気持ちがこもった感想文へのコメントは、国語の教員としての腕が鳴る。結局私はその後2日間で全ての生徒の作文へコメントを返した。

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