第11話 イケメン教師
レクリエーションでクラスの距離を縮め、学級経営を立て直そうとは、心に誓ったものの、上手くいくかどうかという不安は常に付きまとう。
凛は放課後いつも通り事務作業をしながら大きくため息をついた。
「どうしたんだいレディ、溜息なんかついちゃって。せっかくの美しい顔がもったいないじゃないか」
凛の耳元で囁いたのは、1年4組担当の鈴木林太郎。
誰が見ても顔立ちが整っているイケメンだ。
「あ、いえ、大丈夫です。」
半ば顔を赤らめながら自然に応答する。
「仕事が終わったら、この俺と一緒にご飯に行かないかい?」
凛は黙って頷く。これは傍目から見ればナンパそのもの。
でも、こんな格好良い人に声をかけられたなら断る理由なんてどこにもない。
林太郎は凛を連れて行きつけの居酒屋に向かう。
凛としても気を紛らわして考え事を減らしたい気分だった。
凛は酒をいつもより多めに飲んで少し酔ってきた。
「鈴木先生、私もうどうしたら良いか分かんないです。あのクラスを3年間まとめていける気がしません。一人ひとりは良い子な筈なんです。でも、集まると団結力がないというか、羽目を外しすぎちゃうとこがあるというか...」
「レディー、君がそんな顔をしてたんじゃ、クラスはついてきてくれないよ。実は俺にもあるんだ。似たような経験が。2年前くらいのこと、なかなか大変なクラスを任されてね。正直かなり手を焼いたよ。途中なんて鬱になりかけて教員なんて職業は辞めようと何度も考えた。だけど、どうしてもそれはできなかった。なぜだかわかるかい?それは好きだからだよ、教員と言う職業が、子どもが、教え子たちの成長が。その仕事が心の底から好きなら、多少苦しいことや辛いことがあったとしても続けていくしかないんだよ。」
凛は黙って頷く。確かに彼の言う通りだ。子どもたちは多感な時期でもきっと毎日を一生懸命に生きている。なのに、教員である自分が、担任である自分がそんな弱気なことではどうするのだ。まだまだ教員生活ははじまったばかり。これから更なる試練が待ち受けているかもしれないことを考えれば、これくらいのことには耐えなければ。
凛は、林太郎に礼を述べると、その場をあとにした。
彼は爽やかに手を振って凛を見送っていた。
「結局奢ってもらっちゃったな。にしても何て素敵な人なんだろう。格好良いし、優しいし...」
凛は知らぬ間に彼に対して恋心を抱いていた。