第109話 昼食休憩。
沙織の言葉で、日和は我に返った。
「そ、そうなんだよ。歴史好きなんだ、私... あ、もうそろそろ昼食休憩だね。」
昼食休憩の時間、生徒たちは博物館の外で日頃仲良くしている友だちと共に食事をする。
中でも特に目立つのは牛島佐紀のグループ。単純な話で、彼女たちのグループは、クラスの中で一番大きいのだ。
牛島佐紀、宮島桜、如月真由、荻原まどか、横山光里、井上美月、遠藤花実の7人が輪になって食事をしている。
井上美月は、その中で談笑しながらも、1人だけ痛烈な孤独を感じていた。
「他のメンバーは軽音楽部を結成して、楽しそうに活動している。でも、私は...」
そんな彼女の心の中の気持ちにはお構いなしに、会話は続く。
まどかが真由に話しかける。
「ねぇ、真由、あなたのエビフライとてもおいしそうね。1つ貰っても良いかしら?」
「もう、しょうがないなー。ほんと、まどかは食いしん坊なんだから。」
真由が呆れたように言った。
クラスの中で、2番目に大きいグループ。それは恐らく秋田健のグループだ。
秋田県、田中直人、加藤大樹、久保和樹、佐藤雄介の5人は早めに昼食を食べ終えると、いつものようにくだらない遊びをしている。
けれど、その時間が彼らにとってはかけがえのない、そして最高に楽しい時間だった。
今回行っているのは、名付けて「愛してるゲームトーナメント」。
愛してるゲームとは、単に「愛してるよ」と交互に言い合うだけのゲームであり、その言葉に照れてしまっり、笑ってしまったりしたほうが負けになるルールだ。
「愛してるよ。」
「愛してる。」
「愛してるわ。」
健は直人と愛してるゲームをしている最中、ふと斎藤るなの姿が視界の隅に入った。
「秋田県、最近ちょくちょく斎藤さんの方見てるよな。さては惚れたか?」
直人がいたずらっぽく笑う。
「バッカ。そんなわけねーだろ。罰ゲームのこともあってちょっと気まずいだけだ。そんなことより、続きをやるぞ。"愛してる!"」
健は平静を装いながら、心の中で思った。
「確かに可愛いよな、あの子。スタイルも良いし、足も長い。あの子の彼氏だったら、相当鼻が高いだろうな...」
植松博と森本猛は静かにではあるが、いつも通りのくだらない言い争いをそている。
「猛。悪いが弁当の早食いは俺の勝ちだ。」
「どういう自慢だよ。そもそも俺はお前と争ってねーし。そういうことは英語のテストの点数で勝ってから良いな。」
「英語のテストの点数しか自慢することがねーのかよ。てめぇこそ、俺に数学のテストの点数で勝ってから言いな。」
「はいはい、2人ともそこまで。もうそろそろ昼食休憩終わるよ。」
丁度水野真理が2人の間に入ってそう言ったタイミングで、私は生徒たちに呼び掛けた。
「さぁ、みんなもうそろそろ昼食休憩が終わるから、トイレとか済ませていつものように並んで!」