第101話 孤高の天才
俺の名は及川春斗。好きな教科は数学、嫌いな教科は国語だ。
自分で言うのも何だけど、俺は友だちが少ない。いや、というよりほぼいない。
原因は主に話が合わないからだ。
数学はとても楽しく面白い教科なのに、クラスメートの多くにはその良さが分からないようだ。
勉強は苦手な方で、国語も社会も英語も理科もいつも赤点だったけれど、数学だけは常に満点をキープしていた。
これは俺の密かな自慢だ。
数学の良さは、答えが普遍的なところ、そして数式の美しさにある。
例えば、−1+2−3+4−5+6−7+8−9+10=?という数式は、(−1+2)+(−3+4)+(−5+6)+(−7+8)+(−9+10)と変形すれば、1+1+1+1+1になり一発で5と分かる。
こんな簡単な問題でもとても美しい。
でも、俺はもっと難しい問題を考えるのが好きだ。
例えば、以下のような問題。
正の整数a,b,cが次の条件を満たしているとする。
・a+b+c=100
・a²+b²+c²=a⋅b+b⋅c+c⋅a
である時、このような組(a,b,c)は何通りあるか。ただし、順不同(a,b,c)、(b,c,a)、(c,b,a)は同じとみなす。
この問題は数学オリンピックの予想問題集に掲載されていたものだ。
簡単に説明すると、式を変形して、成り立つ条件(a=b=c)を見つけると、最初の条件と矛盾するから、解なしという結論になる意地悪な問題だ。
俺はこの問題を解くプロセスを他の誰かと共有したい。でも、それは意外と難しいことだ。
まずa²+b²+c²=a⋅b+b⋅c+c⋅aという等式をまとめると、a²+b²+c²-ab-ba-ca=0となる。次に、a²+b²+c²-ab-ba-ca=½[(a-b)²+(b-c²)+(c-a²)]を証明する。右辺を展開すると、½[(a-b)²+(b-c²)+(c-a²)]=½(a²-2ab+b²)+(b²-2bc+c²)+(c²-2ca+c²)=½(2a²+2b²+2c²-2ab-2bc-2ca)より、a²+b²+c²-ab-ba-ca=½[(a-b)²+(b-c²)+(c-a²)]ということが証明できるわけだが、多くのクラスメートはここまでのプロセスで拒絶反応を示す。
いや、クラスメートだけじゃない。周りの大人たちにもこれだけで頭を抱える数学アレルギーが多い。
そんな俺は、両親に勧められて、数学オリンピックに出場することに決めた。
そこには俺と気が合う面白い中学生が、たくさんいるかもしれない。