第100話 新しい風!
1年生の2学期中間テストを終えて、学力的にも精神的にも成長した生徒たち。
テストが終わったあとの2者面談でも、教え子たちの成長が十分に感じられた。
1学期は反抗的な態度を取ったり、全く私と話してくれなかった生徒たちも、心を開いて対話をしてくれるようになったのだ。
そんな中、仲良しグループの6人組が相談に来た。
牛島佐紀、宮島桜、如月真由、荻原まどか、横山光里、遠藤花実である。
「先生、文化祭の前夜祭でのベース、とても素晴らしかったです。」と佐紀。
「ありがとう。そう言って貰えてうれしいわ。」
「実は先生に相談したいことがあって。私たち、この学校に軽音部を作りたいです!」
佐紀が力強く言った。
「初期メンバーはここにいる6人。あとは顧問になってくれる先生がいると良いんだけど、園崎先生、お願いできませんか?」
「え? 私。」
「だって音楽の望月先生は吹奏楽部と合唱部の顧問やってるから忙しそうだし、園崎先生くらいしか頼める人がいなくて。」
「分かったわ。でも、校長先生にも相談させて。」
「はい。ありがとうございます。」
私はこのことを松山校長に相談に言った。けれど、彼女はまるで生きた屍のような状態だった。
「私の校長と言う肩書はもう形式上の飾りみたいなもん。そういう相談は丸山先生にして頂戴。」
彼女はぶっきらぼうにそう答えた。
私が丸山先生に相談を持ち掛けると、彼女は軽音楽部を発足させることに肯定的な様子だった。
「良いじゃないですか、軽音部。園崎先生も顧問をやってみれば。」
「承知致しました。ありがとうございます。」
こうして浜森中学校に、新しく軽音部が発足したのだった。
「まずは役割を決めようか。まずは、ギターやりたい人、手挙げて!」、初めての部活にて佐紀が元気良くみんなに呼び掛ける。
「はい!」
「はい!」
「はい!」
一斉にみんなが手を挙げる。
「みんなやる気に溢れてるね。」
そう言った後、私は心の中にある疑問が思い浮かんだ。
生徒たちにそれをぶつける。
「そういえば、井上さんは?」
「あいつは...意気地なしだから...」と佐紀。
「そう。美月は音楽が苦手だからやりたがらないんですよ。いや、音楽が苦手なことよりもそのことを私たちに責められるのが嫌みたい。」と花実。
「でもよー、佐紀もこう見えて意外と友だち思いなんだぜ。本当は、美月も含めたみんなでバンドとかやりたいって思ってる。」と真由。
「はぁ? そんなこと思ってねーし。誰がそんなこと言ったよ。」
慌てて必死に否定する佐紀を見て、私は思わず微笑んだ。
「何がおかしいんですか?」、6人が口を尖らせて声を揃えた。
「いや、仲良いんだなって思ってさ。」
そう、この6人は以前佐紀がグループの中心にいて、それ以外の生徒が彼女に従う関係だった。
それが今じゃ佐紀の性格も丸くなり、周りの生徒も彼女に言いたいことを言えるようになっている。
「この子たちも、凄い成長したな...」、とつくづく思う。
私の心の中に、爽やかな新しい風が吹いたような気がした。