8. 打ち破る盾
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旧砦。岩山を切り崩して作られた三つの壁で構成される堅牢な砦。第一、第二の壁は見捨てる前提で設計されており、本命の守りは第三の壁から行っていたとされる。
ザルツブルグができる前から存在し、今やブルース地方と呼ばれる前の、未踏の地に進出するために作られた場所である。
人は去り、廃墟となって何百年。今やザザンが率いる盗賊団の根城となっている。
リーダーであるザザンは旧砦の中心。岸壁の上に建てられた建物から下を傍観している。その下では捕らえた女冒険者を囲って、盗賊たちが賑わっていた。
「いやぁ、ザザンさんには頭が上がらねぇぜ。先に良い女を楽しめるなんてな」
「ああ、早く夜にならねぇかな」
現在、空が朱色に染まる夕暮れ時だ。日が沈むまでそう長くはない。
服リーダーを務めている男、ヒップスが女冒険者の顎下を掴んで寄せた。
「たっぷりと可愛がってやるからな。その強気な姿勢が続くか見ものだな」
その言葉に、女冒険者は一瞬だが怯えた顔を見せてしまった。
ヒップスはその顔に愉悦の笑みを浮かべた。
「男みてぇに振舞っているが、所詮は女だった、ってわけだ」
女冒険者の胸元にヒップスの手が向けられた瞬間だった。
「ヒップスさん! 遠くに人影が見えます!」
見張りをしていた仲間の言葉に、ヒップスは舌打ちをしながら壁の上に登った。
砦の中心地を守る第三の壁。旧砦で二番目に高く、見張りにうってつけの場所だ。
「どこだ?」
「岩山の間の道。誰かが歩いてくる影が見えました」
ヒップスは魔術師。見張り役に指を刺された方向に望遠鏡の魔法を使って確認した。
旧砦付近は岩山に囲まれ、その内側に存在している盆地だ。規模はそれほどでもないが、この土地に踏み入れるのには一本道しかない谷を通ってこないといけない。
「……ん?」
一人の冒険者が堂々と谷を通ってきて、盆地を少し歩いたのちに立ち止まった。
重厚な鎧を身に纏い、片手には大盾を装備した冒険者だった。
「単独で来たというのか? いや斥候か?」
ヒップスは魔法で隠密で隠れている仲間を探すが、そんな影は一切なかった。
「舐めてんですかね?」
見張りがそう言う傍らで、ヒップスも同意見だった。
「……重戦士か。動きが鈍い職業で堂々と来たものだな」
鼻で笑った瞬間だった。
重戦士の冒険者が、前傾姿勢を取った瞬間、土埃を上げて走り出した。それは重戦士や剣士などの機動力を遥かに超えた尋常ではない速さでだ。
「——ッ!」
「あの重戦士! 物凄い速さでこっちに走ってきてます!」
「そんなことはわかっている! あれはおそらくハリボテだ。中はおそらく魔剣士だ! 魔導狙撃銃で撃ち殺せ! 実弾式の五〇口径のだ。急げ!」
ヒップスの命令ですぐさま魔導狙撃銃を装備した者が重戦士を狙った。
ドヒュンッ! と狙撃銃の発射音とともに重戦士の頭に直撃した。
だが、実弾は金属の兜を貫くのではなく、跳弾してどこかへ飛んでいった。
「なにッ!?」
狙撃者は驚きながらも、再装填して重戦士に数発ほど撃ち込んだ。
しかし、火花を散らすだけで、重戦士はまっすぐ旧砦に向かって走ってくる。
「本当に重戦士なのか? ならこれならどうだ! ――〈ストーン・キャノン〉ッ!」
ヒップスは土魔法を行使する。出力最大、限界まで高めた〈ストーン・キャノン〉を重戦士らしき冒険者の頭部に向けて射出した。
だが、重戦士に直撃するが、岩石は火花を散らしただけで砕けてしまった。冒険者はよろけるわけでもなく、弊害を物ともせずに突き進んでくる。
「ヒップスさん! もうすぐ壁に到達します!」
見張り役がそう言った時には、重戦士と壁の距離は百メートルを切った。
「大丈夫だ。壁は三枚ある。簡単には突破できない。入り口に戦力を集中させろ! 入ってきたと同時に銃と魔法で集中攻撃だ――」
重戦士は大盾を構えて、門ではなく、壁に向かって突進した。
ドンッ、ドンッ、と、最後の壁を破壊して砦の中心に侵入した。
「じゅ、重戦士が、壁を突破してきたぞ!」
三枚の壁を一気に破壊し、目的地に到達した重戦士は止まろうとしたが、あまりにも勢いがついて、地面を削りながら壁に激突して止まった。
「ふむ。まるで普段着を着ているように身軽だ。新調して正解だったな」
壁にめり込んだリック・ガルートンは平然と土埃から出て、装備の感触に満足する。
装備の感触に浸るのも程々に。リックは気持ちを切り替える。
「さて。仕事を始めるか」
リックは捕らえられている女冒険者のほうに歩き始める。すると、一人の盗賊が魔導機関銃を持ってリックの前に立ちはだかった。
「そんな銃まで持ってるのか。どうやって手に入れたんだ」
回避をするわけでもなく、連射される弾を受けながらまっすぐ歩く。鋼鉄の弾がリックの鎧に直撃しても銃弾は金属を擦る音だけ残してどこかへ飛んでいく。
やがて賊の間合いに入り、リックは殴り飛ばした。
賊は軽々と飛んでいき、壁に叩きつけられ地面に落ちた。
リックは女冒険者に近づいて拘束を解いた。
「よう。平気か?」
「お前、リックか? ずいぶんと派手な登場だな」
「まあな。まだ動けるか? 捕まった人をお前に頼みたい。敵は俺が引き受ける」
「わかった。後はよろしく頼むぜ」
女冒険者は建物に向けて走り出した。
「捕らえろ! 女を絶対にいかすな――あがっ、なんだ!?」
賊たちの視線が引っ張られるかのようにリックに釘づけになる。
リックのスキル〈フルヘイト〉。効果範囲以内にいる敵の意識を強制的に引き寄せる技。かけられた相手は自分の意思でリックから目を離すことができなくなるのだ。
「なんて気迫なんだ。引き寄せられて動けねぇ!」
「仕方ねぇ! まずは重戦士からやっちまえ!」
賊はリックを包囲して一斉に襲い掛かる。
重量のある鎧でリックは軽々と跳躍して、賊たちの頭上へと飛んだ。
「あんな重そうなのに、なんて身軽な跳躍なんだ!」
重戦士とは名ばかりの身動き。賊が空を仰いで驚いているなか、リックは大盾を大きく振りかぶり、落下と同時に地面へ目がけて振り下ろす。
「——〈シールド・インパクト〉ッ!」
大盾を地面に叩きつけた瞬間、衝撃波が起こり、半径五メートルの賊たちを吹き飛ばす。
リックの盾術スキル〈シールド・インパクト〉。盾で叩きつけて衝撃波を引き起こす技。最大五メートルの敵に影響を与える。威力は、加減して時速四〇キロで堅い物に激突したくらいの衝撃が彼らを襲っている。地面に転がる彼らはすでに気絶していた。
「ドローンの位置は、っと。あそこだな」
生中継をしている浮遊する球体を確認し、カンザリーナの約束を果たすことにする。
魔力操作で武装バックを動かし、装置が魔導軽機関銃ヴォルグ04を掴みやすい位置に移動させた。マグネットロック技術で連結する銃をリックは掴み、魔力信号を送って装置から取り外して装備する。カートリッジには最大弾数の九九九発が充填されている。
「連射速度は最大でいくか」
構えたと同時に外装を展開させて露出した銃口を向けた。そして、引き金を引いた。
瞬間、毎分一五○○発の発射速度の弾丸が撃ち出された。
壁際で逃げ惑う賊を当てずに壁を撃ち抜きながら追いかける。逃げ場を失って戦意喪失した頃合いを見て引き金を戻した。
「こんなもんか」
地表にいる賊たちを制圧が終わり、次は壁の上にいる賊に目を向ける。影に隠れながらリックに向けて魔法や銃を撃つ賊の姿が見受けられた。
リックは一度、銃身を収納し、榴弾モードに切り替えて、再び外装を展開する。そして、隠れている周辺の壁に撃ち込んだ。
爆発音とともに賊の悲鳴が聞こえた。だが、それでも攻撃をやめない者がいたため、次は擲弾モードに変更して撃ち込んだ。
射出された弾丸は放物線を描き、壁の内側を爆発した。
「……、」
すると、誰かが作った即席の白旗を上げた。
「よしっ。カンザリーナとの約束はこれぐらいで十分だろう」
魔導軽機関銃〈ヴォルグ04〉を武装パックに戻して、リックは一息ついた。
「賞金のわりにはあっけなかったな。残るはリーダーのみか」
リックはそう言って、尖塔で見下ろしている男に目を向ける。
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