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7. 出陣

アクセスありがとうございます。

 リックは依頼の詳細を話したあとは、さきに貨物エレベーターにいくように告げられた。最終工程をそこでやるらしく、とくにやることもないので先に向かった。


 なぜ貨物エレベーターなのか、リックは疑問に思ったが。


 ザルツブルグの出入り口は三ヵ所。リックが向った場所は断崖絶壁の方向である。冒険者が外へ冒険に出る方向だ。

 この断崖絶壁の下には中央ブルーツの大地に降り立つエレベーターが存在する。降り立った先には広大な平野が続いており、初心者たちがよく狩場にしている。

 出口付近は固められた広場が存在し、その周辺には畑がある。ブルーツ地方の土地は魔力濃度が高く、野菜や穀物類が通常の栽培期間の半分で育つのだ。そのぶん魔物の発生率も高く、強力な魔物も跋扈しているが。リスクハイリターンと考えればまだいいほうだ。


 話が逸れた。


 三兄妹は張り切って完成した武装を運搬車に乗せてやってきた。最終工程は、貨物、それも数機しかないのに作られた有人搭乗機ゴーレム用のエレベーターのほうだ。

 そこで、リックは完成された自分専用武装と対面した。


「……、」


 その完成度に言葉が出てこなかった。一ヵ月という期間。金属加工。魔石加工。術式と回路、魔法陣の動作確認など、リックは膨大な魔力を貸して手伝いはしていた。

 だが、どんな原型になるかは予想はしてなかった。


「どう? 感想を聞いても?」

「いや、もう。期待以上すぎて言葉が出ない」


 硬質感のある特殊金属と竜素材でできた重鎧。機械的な部分が追加されてはいるが、戦士の鎧と言えるくらいには上手く融合していた。

 暗い青色を基調とした腰マントは板金と鎖帷子が編まれている。

 真正面から戦いたいと言う者はいないくらいにはつけいる隙が一切ない鎧だ。


 リックが用意した魔法鞄(マジックバック)も取り付けられており、腰には両刃直剣と剝ぎ取り用のナイフ、そして真後ろには今まで愛用してきた片手用メイスが装備されていた。

 きわめつけは、仕掛けつき縦長の魔導大盾だ。リックが欲しい要素を詰め込んだ最高傑作。世界最強を豪語する者たちの攻撃さえきっと多分メイビー受けつけない。


「あれ? 白と頼んだはずだが?」

「これに目を通しておいてね」


 リックの疑問にカンナは一枚の紙を渡した。


「これは?」

「色のコードだよ。ちょっと特殊な魔法の塗料を使ったから魔力を込めてコードを唱えると色が変わるんだよ。初期は注文どおり白になるから安心して」

「……、なるほど」


 バリエーションの豊かさに感心しつつ、リックは紙のコードに目を通した。


「ところで、なぜここを選んだんだ?」


 店のほうでもできることをここでする理由をリックは訊ねた。


「ここは頑丈に作られてるからね。術式が誤作動を起こして暴走しても簡単に対処できるでしょ。それと、粋な計らいってやつ?」


 ロマンで作ったならロマンで出撃ということか、とリックは思った。


「それじゃ、装備してもらう前にこれ取りつけちゃうね」


 カンナはそう言いながら加工して小さくなった〝魔核(まかく)(せき)〟を胴体部分の内側に取り付け始める。両手サイズだった魔石が、まさかお手玉サイズに変わってしまった。


「魔石って、そんな削っても良かったんだな」

「一番増幅力があるのは中心部分だからね。それにある一定までなら削っても問題ないんだよ。その代わり売却金額はがくんって落ちるけどね」


 金貨何枚になったか。ちょっとケチればよかった、と少し後悔するリックだった。


「よしっ。取り付け完了、っと。それじゃ、装備してみて」


 リックは気持ちを入れ替えて鎧に着替え始める。

 足を通し、腕を通す。そして、ハの字に開閉した胴体に体を通した。瞬間、内側の部品がリックの全身に密着し、外部装甲がそれぞれの部品と繋ぎ合うように合体していく。


「装備した感じはどう? きついところはない?」

「今の丁度いい。動けないからぜんぶとは言い難いが、内側の部品がフィットしてるおかげでズレって言うのを感じない。前より着心地が良い」

「それはよかった。はーい。兜を被せるよう」


 カンナがそう言って澄まし顔のリックの頭に兜を被せる。瞬間、首元の部品と連結した。疑似視野角を採用しているため、魔眼と義眼を魔力接続しないかぎり外が見えない。


 魔眼手術を受けたのも、人口魔眼を構成する術式、その基盤が疑似視覚を採用した物との接続に必要だからリックは手に入れたまである。


「暗いけど少しの間だけ我慢してね。今から魔導軽機関銃と部品を背中に換装するからね」


 天井が開き、魔導軽機関銃〈ヴォルグ04〉とマナタンクが取り付けられた武装バックパックがアームにとともに降り、リックの背中に換装された。


「バランス悪いかなと思って、左側に魔力を貯蓄したタンクを取り付けたから」

「俺に必要ないだろ」

「リックのスキルのことは知ってるけど銃だけだと重心が偏るでしょ。もしあれだったらべつの武装を取り付けるまでの繋ぎだと思っていいから」

「まあ、それなら」

「決まり。それじゃ、鎧の術式を起動させて完全な魔導具にするから」


 カンナはそう言いながら兄妹とともに導線が繋がれた吸盤を鎧全体に貼っていった。


「リック。魔力を送って術式を起動させてみて。一瞬だけ魔力を吸われると思うけど、すぐに魔力を送り始めるから」

「わかった」


 リックが鎧の術式を起動した瞬間、魔力が一気に持っていかれるような感覚に襲われて眉をひそめた。一瞬にして総量の一割を持っていくほどだ。カンナの言われたとおり、用意されていた魔力タンクのほうから供給されて負担がなくなったが、


「こんなに魔力を持ってかれるとは思わなかったな」


 リック一人では到底起動できるような魔導具ではなかった。


「ロマンを詰め込みまくったからね。コストがかかるのは当然だよ」

「コスト、か」


 その言葉にリックは思わず笑ってしまった。


「どうしたの?」

「いやなに。パーティに追い出されたときに、コストがかかりすぎるって、言われたことを思い出してな。本当にコストをかけすぎた」

「たしかに」


 カンナは微笑しながら返答し、手元のタブレットを操作して防具の状態を確認する。


「うん。術式、回路、魔法陣、コアともに正常に作動。魔力循環率正常。魔力濃度一定値に到達。魔具化に成功。魔力充填完了。術式の再起動……成功。降下準備開始」


 カンナはそう言って近くのボタンを押した。


『降下準備を開始します。機体固定台をエレベータールームに移動します。作業員のかたは速やかに退避してください。ドアが開きます』


 アナウンスともにリックを固定する台がレールに沿ってエレベーターへと移動する。二重の扉が開き、かごの中に固定される。


『周辺地域の安全を確認。プロテクトプレート解放。降下準備完了』


 アナウンスがそう言うと、


「いつでもいけるよ」


 エレベーター内に入ってきたカンナがそう告げた。


「ありがとな。ナットとボルト、それにカンナの力がなければこの武装はできなかった」

「そのことで相談なんだけど、私たち〝セキネツ武具店〟と専属契約しない? もっとその武装を改良したいし、なにより恩人のリックに恩返しがしたい」

「またその話か? もう十分もらってると思うが」


 リックがそう言うと、カンナは頭を横に振った。


「君が思ってる以上に、廃業を考えるくらい当時の私たちは追い詰められたんだよ。君が武装一式を買ってくれて。今でも客足は少ないけど、黒字になってるのはぜんぶリックのおかげ。そのぶんサービスしなきゃ罰が当たるよ。それに冒険者じゃなくてもリックに助けられた人はこの街には多いんじゃないかな?」

「……、」

「それで、どうかな? この提案、受けてくれる?」

「……、わかった。契約する」

「よかった。それじゃ、初のソロデビュー戦。頑張ってね」

「おう」

「いってらっしゃい」


 カンナがそう言ってエレベーターの外へ出る。そして、降下ボタンを押した。


『ドアが閉まります。ご注意ください』


 ドアが閉まり、リックを乗せたエレベーターが降下を始めた。


「……、術式起動。疑似視覚術式と接続」


 リックがそう唱えると視界が開き、まるで兜を被っていないと思わせるほど鮮明にエレベーター内を目に映し出した。


「外部と内部の音を調整」


 兜で籠った音が次第になくなり、外の音も鮮明に聞こえ出した。


「色彩変更。コードF」


 リックがそう言った瞬間、鎧は設定された白に変色した。

 準備が終えると同時に、エレベーターは最下層に到着した。


『ドアが開きます』


 エレベーターのドアが開き、中央ブルースの大地が視界に広がった。


『機体拘束台、固定解除』


 アナウンスとともにリックの全身を固定していたロックが解除された。


『いってらっしゃいませ』

「……、」


 リックは動くようになった左手で横の大盾を持った。魔力を込めると魔導磁石が強まり、腕に、ガン、と強い金属を鳴らして接着された。


「出陣だ」


 リックはそう言って、単独活動はじまっての一歩を踏みしめた。


読んでくださりありがとうございます。

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