6. ギルドと依頼探し
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ギルドは、冒険者の都〈ザルツブルグ〉の中核である。在籍する冒険者たちを管理し、ブルーツ地方全体を迷宮から土地を管轄し、なおかつ都市運営を担っている。
ミガル王国の領土であるが、実際のところはミガル王国の名前を借りてるだけの都市である。その気になればいつでも独立できる用意が整っている特殊な都市だ。王国の影響を受けつけず、王立騎士すら駐屯していない。他国からもべつの国という認識だ。
いわば〈ザルツブルグ〉の言いなりなのである。国益の六割が〈ザルツブルグ〉であったり、冒険者という戦力があるために下手なことができないのだ。
そんなギルドに久々に顔を出したリックは、張り出された依頼を見つめていた。色々と必要な手続きを終わらせて、手頃な依頼を探しているところだ。
「リック君じゃない。久しぶりね。最近顔を出さないから心配してたよ」
「よぅ。アメリア。かれこれ一ヵ月ぶりになるのか」
リックに声をかけてきたのは、冒険者登録後につけられた担当官のアメリアだった。
三つ編みにしたふんわりと明るい茶髪。目を引き付けるようなコバルトブルーの綺麗な瞳を持ち、幼さが同席する顔の右頬と首には、刃物で切った傷跡が残るエルフの女性だ。
普段は受付嬢として働き、担当している冒険者に依頼を斡旋したり、冒険者活動のアドバイスなどの業務をこなしている。
「今日はどうしたのかな?」
「なにか一気に大金を稼げる依頼はないかな、と思ってな」
「お金ないの?」
「まあな。一人で活動していくために貯金をすべて使い果たして借金までしたからな」
「えっ、なんでまたそんなに……」
アメリアは、ありえないと言わんばかりに呆れていた。
実際、リックの貯金は六○○○万ユルドあった。しかし、オーダーメイドの魔導具の鎧と盾、武器の製作費に八割もっていかれた。その他もろもろに加え、魔導銃を購入し、魔眼手術を借金してまでした。手元にあるお金はあと一日分の食事分しかない。
「というわけで、なんかよさげな依頼をおくれ」
「と言われても、ここのところはそんな大きな依頼もないしなぁ」
アメリアは困った面持ちで、ある壁のほうに目を向ける。
「あるとしたら、賞金首を狙うくらいしか……」
「賞金首か。まあ、背に腹は代えられないし、それでいっかな」
リックはそう言いながら壁に貼られた指名手配書を見る。すると、張り出された数枚の指名手配書に明らかに、張り直されたばかりの手配書があった。
「この指名手配犯、前より懸賞金が上がってないか?」
「そうだよ。それもついさっき跳ね上がったばかり。A級冒険者パーティを壊滅させたらしいの。命からがらに逃げてきたみたいだけど、リーダーの女性が捕まったの」
「〈ザルツブルグ〉のA級冒険者をか。それはまた派手にやったな」
「ほら、ちょうど生中継されてるよ」
大画面のスクリーンに手配書と同じ顔の人物が映っていた。
黒鳥盗賊団のリーダー、ザザン。くせ毛のロング茶髪の男。いかにもな悪党面をしており、実力だけで総勢一〇名ほどの小規模な集団を束ねる存在だ。
A級冒険者に匹敵するほどの人物であり、懸賞金五〇〇万ユルドの危険人物だ。
「ザルツブルグができる前の旧砦を乗っ取って根城にしてるの。近くの村から女性や食糧に金品と、略奪を繰り返して好き放題してます」
アメリアはそう言いながら顔を顰める。そして、言葉を続ける。
「今は緊急招集された騎士団が包囲して捕まった女性たちを助けようとしてる。冒険者も何組かが駆り出されているみたいだけど」
「……、」
生中継されるほどの大事件。カンザリーナとの約束に巨額の賞金首。それにザルツブルグから旧砦までそう遠くはない。断崖絶壁の天然の守りがあるからといって同じザルツブルグ冒険者が襲われることは看過できない。
生中継にちらっと捕まった冒険者らしき女性の姿が確認できた。
約束と賞金、そしてザルツブルグの安全。約束も守れて、賞金も手に入って、人助けして世の中にも貢献できる。リックにとって良い条件だった。
「なら、俺もいこう。場所は旧砦で間違いないんだな?」
「え、ええ……」
「場所がわかってるなら大丈夫だろう。ちょっくら一稼ぎしてくる」
「ちょっ、そんな小売店にいくような感覚で……」
「今日、ギルドに来たのは新しい装備を試したかったからだ。相手に不足はない。この手配書、一枚もらっていくぞ」
不安そうな表情を浮かべるアメリアに手を振ってリックはギルドを後にし、その足で〝セキネツ武具店〟に立ち寄って準備を始めた。
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