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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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57. ホムンクルス

「お前いつからあんな動きができるようになったんだ? 魔法の発動位置とかタイミングとか完全にわかってただろ?」


「なんと説明すればいいか。最近、魔力を感じ取るだけで輪郭までわかるようになったんだ。魔法も、行使による術式の構築、出力、発射角度まではっきりとな」


「だからあんな感じで魔法を避けれたのか。今後リックと戦う魔法職が可愛そうだ」


 ハルトが笑う後ろで、オーバーヒートした光線銃を担いだリックは溜息を吐く。

 白漂領域を消滅させた後、用事があるというハルトの後にリックたちは続く。


 周辺は薄暗くなって空の朱色も蒼に徐々に飲み込まれていく時間帯。領域発生後もあって世界は嵐が去ったかのように静かだった。


「エリナ。調子のほうはどうだ?」


 リックは領域発生時に体調を崩したエリナに声をかける。


「はい。領域が消滅してからは楽になりました。むしろ、発生時にお力になれず、申し訳ありません。皆様に大変ご迷惑をおかけてしまいました」


「あれはしょうがないよ。領域が放つ瘴気は普通じゃないから、耐性のない人が当てられたら気絶するレベルだし。意識を保ってただけすごいと思うよ」


 頭を下げて謝罪するエリナに、カンナは彼女の胸を触りながら励ました。


「そうだぞ。むしろエリナが無事でよかった」


 領域の瘴気は常人には耐えられない。よくて気絶。最悪の場合は死ぬ。重度の侵食を受けると魔物に成り果てる可能性だってある危険地帯なのだから。


 冒険者でも症状は同じ。常人と違うのは、体に影響が出るまでに時間がかかる。


「それにしても、リックが美人たちをひっかけて冒険をしてるとはなぁ。追放されて寂しい思いしてるんじゃないかって心配してたのに損したぜ」


「最初はな。でも、一人じゃないよ、って教えてくれた仲間がいたからな」

「なるほどねぇ」


「そういえば、ハルトはいつからこっちに帰ってきたんだ?」

「ついさっきだ。この辺には用があって立ち寄ったんだ」


「その用というのは、この先か?」

「そうだ。そろそろつくと思う」


 ハルトの言ったどおり、道から外れて数分ほど歩いた先で目的地に辿り着く。

 背の低い草花が生える閑散とした大地。その一ヵ所。ハルトが立ち止まった先には凄惨な光景が広がっていた。


 荷馬車が横転し、周囲には人が入るくらいの鉄の箱が散乱し、魔物にこじ開けられた形跡が残っていた。周囲には鮮烈な赤と、人の残骸が散らばっていた。


「騎士団からの直々の依頼でな。なんでも隣国を経由してブルース地方に持ち込まれたヤバいブツがあるらしい。俺はそれを可能なかぎり回収を頼まれたんだけど」


 周囲の現状を見てハルトは肩をすくめた。

 ハルトが目的とするブツというものは、縦長の箱を指しているのだろう。だが、どれも魔物にこじ開けられており、空箱ばかりが散らばっていた。


「みなさん。あの箱だけ無事みたいです」

「あ、ホントだ」


 エリナが指さした先に、傷だらけではあるものの、未開封の箱が一つだけ残っていた。

 それにいち早く駆け寄ったカンナは、「開けていい?」とハルトに確認し、「そのほうが助かる」と許可をもらって魔導巧機重鎧00号機を操作して箱をこじ開けた。


 バキン、と蝶番が壊れた音とともに蓋が開き、中に入っていた白い花びらが舞った。


 箱に入っていたのは、人だった。


 白い花の上に横たわる美しい女性。絹のように滑らかな白い肌。腰まで届きそうなほどの長い白髪。そして、胸元には赤い魔石が埋め込まれていた。


「これは……」

「ホムンクルスだよ」


 エリナの言葉に答えるようにハルトは言った。


「それは、いったいなんなのですか?」


人工生命体(ホムンクルス)。人造人間。人の手によって作られた生命。約七百年前から続く人類史上最悪な形で生き残り続ける〝旧時代の技術〟の一つだ」


「旧時代?」

「エリナは箱入りなんだっけか。なら、知っておいて損はないと思うぞ」


 ハルトの問いにエリナは頷いた。


「今から七百年前の話だ。人造人間(ホムンクルス)ってのは、そもそも人口減少を解消するために人権を付与することを条件に製造が許された人間のことだ。最初こそ効果はあったらしいけど、なにぶんモデルが十体しかいなくて近親問題が起こったらしいがな。羨ましいね。カスタムもできたみたいだからその時代に生まれてたら俺も理想を追い求めてみたかったよ」


 ハルトはそう言いながら人工生命体(ホムンクルス)の女性の頭を撫でる。


 人工生命体(ホムンクルス)――人造人間も同じ表記としよう。


 人造人間(ホムンクルス)は基本的に色素が薄く、色白で白髪。目の色はモデルになった十名のが引き継がれている。感情は希薄、従順で献身的。胸元には制御装置の赤い魔石が埋め込まれおり、判別しやすいように剥き出しになっている。なにを考えるにしても主人を優先する。これは本来の役割をインプットされるからであり、最終的な意思決定権は人造人間(ホムンクルス)にある。


 人なのか、物なのか、そんな曖昧な位置に人造人間(ホムンクルス)はいる。倫理観を無視した技術に批判が集まるのは必然だが、人口減少を防ぐための救済処置としてうやむやにされていた。


「それが、どうしてここに?」

「奴隷だ」

「奴隷って、いま人権が付与されてると」


 エリナの疑問にハルトは撫でる手を止める。


「それは今も変わんねぇ。それに人工生命体(ホムンクルス)、ましてや人間を製造することじたい違法だ。でも、この世はやったもん勝ちなんだよな。ある国じゃ軍事利用してたり、裏社会じゃ人造人間(ホムンクルス)を使った商売が今も盛んだ。牧場があるくらいにな」


 そう言いながらハルトは女性の胸に埋めこまれている魔石に触れて魔力を送る。


「こんなことが起きた要因として魔力災害が大きい。金に困った老夫婦が人造人間(ホムンクルス)を商品として売ったことをきっかけに、人身売買が当たり前のように行われるようになった。それは〝奴隷制度の再来〟。人造人間(ホムンクルス)という存在が、人類史上二度目の奴隷制度を制定させる引き金になってしまった。悲しいかな。普通の人間と変わんねぇのに、経緯が違うだけで人々の中では便利な道具でしかなかったんだろうな」


 人造人間(ホムンクルス)の制御装置に魔力を送り終えたハルトは立ち上がった。

 ハルトが行ったのは停止状態の人造人間(ホムンクルス)を目覚めさせる行為。胸に埋めこまれた制御装置は魔力を供給しなければ強制的に活動を停止する仕組みなのだ。本来なら必要としない。それは物という証であり、行動を制限する(くさび)である。 


「そうなのですね。彼女たちはずっとそのように……」


 微細ではあるが、悲しげな表情を浮かべるエリナは人造人間(ホムンクルス)に触れる。今も縛られて、それすら疑問に思わない人造人間(ホムンクルス)の女性に、そのために生まれてきたとわかっていても、当時の自分の境遇を重ねて同情した。枷がなければ、彼女も自由になろうと思うのかと。



「でしたら、私も人造人間(ホムンクルス)の可能性があるかもしれませんね」

「……。ん? 話が見えねぇな。今の話を聞いてどうしてそんな話になるんだ?」


 ハルトは後頭部をさすりながら小首を傾げた。それは話を聞いていたリックとカンナの二人も理解ができずに顔を合わせるほどに。


「初めて自分のステータスを見たときからずっと気になってました。人間と書かれているのに、変なマークがついていて。実際に見てもらったほうが早いと思います」


 エリナは顔色を変えず、閲覧可能にした〝天啓の白書〟をハルトに手渡した。

 不思議そうな眼差しをしながらハルトは〝天啓の白書〟を開く。リックとカンナも左右から覗くようにして彼女のステータスを閲覧した。


 ――――


 名前:エリナ・クラークロンド

 性別:女性

 種族:人間?

 職業:神聖術師【聖女】


 ――――


「ホントだ。はてなマークがついてるね」


 種族名を見たカンナはそう言った。


「つーか。エリナって聖女だったのか。同じ都市に現れるのは珍しいな」

「だが、それ以外はとくに目立った個所はないな」


 リックは種族名のほかにべつの情報に目を向けたが、不審な点は見つからない。むしろ、始めたての冒険者にしては異常なほどにステータスが高いくらいだろうか。


「どう思いますか?」


 無表情のエリナは淡々と訊いた。不安というよりは率直な疑問からくる質問だろう。確かに感情は希薄だが、それは個人の性格によって異なるため判断基準にはならない。


 エリナの質問に三人はおたがいに顔を合わせて、再度エリナに視線を向ける。


「なにも問題ないんじゃないの?」

「気にしなくてもいいと思うぞ」


 リックとカンナはそう言った。深刻なこともない。〝天啓の白書〟を所持が可能の時点で人類側であることは確定している。なにかしらの混血であってもそれは覆らない。それを知っているからこそ、ここにいる全員の反応は薄い。


「あまり驚かれないのですね」


 平然としている三人にエリナはそう言った。


「そりゃぁな。この場に外見詐欺が二人もいるからな」


 ハルトはその外見詐欺のリックとカンナに顎で指しながら言う。


「外見詐欺ってなにさぁ。クォーターなら仕方ないでしょ」

「そうだぞ、ハルト。見た目じゃわからないものだ」


 外見詐欺と言われて、少しだけ不服なリックとカンナは庇うように言う。


「ベースがドワーフなら、なんで見た目が人間なんだよ。聞いたことねェぞ」

「知見が狭いんじゃないか? もっと冒険したほうがいいと思うぞ」

「リックよりは冒険してるほうだよぃ!」


 腕を組みながら澄ました表情で言うリックにハルトは声を張った。

 溜息を吐いたハルトはエリナに向き直る。


「まあなんだ。あんま深刻に考えんな。仮にそうだったとしても、ザルツブルグの人口の一パーセントは保護した人造人間(ホムンクルス)だから安心してくれ。不安にさせたなら謝る」


「いえ。もしかしたらと思っただけなので。困らせてしまってすみませんでした」


 エリナが頭を上げて謝る姿に、ハルトは「やめてくれ」と慌てて止める。

 話が終わりに近づいた頃、カンナの腹が鳴った。


「お腹すいたぁ。もうこの話は終わりにしてご飯いこうよ」


 カンナは腹をさすりながらに言う。それと同時に箱の中で停止状態だった人造人間がめざめて上半身を起こした。寝惚眼のようだったが、それ以外には支障はなさそうだった。


「それじゃ、この子をギルドに送り届けて飯にいくか」

「〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟の報告もしないといけないがな」


 ハルトは、意識が朦朧としている人造人間(ホムンクルス)を抱え上げてそう言った。


 こうして、ハルトの用事が済み、無事にザルツブルグに帰路につく。


 本格的に暗くなってきたブルース地方の大地は静かで、不気味だ。だが、遠くに見えるザルツブルグの明かりがそんな心細さをかき消してくれる。

 わずかな太陽の残滓が広がる空は、蒼く、澄み渡っていた。





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