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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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56. ハルト・ヴァルバック

 ハルト・ヴァルバック。男性。年齢二一歳の人間。ザルツブルグ出身の父親を持ち、極東の島国出身の母親を持つ。島国よりザルツブルグへとやってきたA級冒険者だ。


 暗褐色のナチュラルヘア。茶色の瞳。端正な顔立ちで、サングラスの間から見えるきりっとした目つき、余裕の笑みを浮かべた彼からは自信に満ち溢れた雰囲気を纏っている。


 身長はリックよりわずかに低い。細身ではあるが、弱々しい印象はない。


 セーターの上に灰色のジャケットを羽織り、グローヴと金属がはみ出たタクティカルブーツを身につけたコーデ。冒険者の装備としては頼りない服装だが、服の内側には衝撃を加えると硬化する特殊合金を使用したプロテクターを身につけている。


 円形上の盾と片手直剣を武装していた。

 リックが最後に会話した頃から武器が変わっていた。

 おそらくは、機械仕掛けの魔導武装だろう。


「ハルト。いつザルツブルグに?」

「まあなんだ。色々と話したいことはあるが、まずは領域をどうにかしてからにしようぜ」


 ハルトはそう言って背中にせおった剣を鞘から引き抜く。

 剣には中央に空洞が存在する剣だ。


「さあ、おいでなすって。化物ども。まとめてボコボコにしてやる」


 立ち上がった魔物たちがハルトにいっせいにかかる。

 ハルトは笑みを浮かべて、魔物の初撃を半身を引いて避け、斬り上げる。スキルを使用しない一撃は容易く魔物を両断して、塵となって霧散した。


「どうしたどうしたぁ! そんなんじゃ俺を倒せないぜ!」


 魔物たちが連続して振るう剣を難なく避ける。続々と魔物が出現する中で、ハルトは笑みを崩さず、先に隙を見せた魔物から剣の餌食にしていく。そして、遊ぶようにその剣をいなしながら魔物の顔面に盾でぶん殴り、剣を持ち替えて魔物の胸倉を掴み、盾で殴る。


 ガン、ガン、ガァン! と殴りつけ、最後はアッパーで顎を砕く。


 盾持ちの剣士にしては、パワフルな戦い方でありながら洗練されている。剣が降りづらい相手は臨機応変に対応し、魔物の顔面を肘で破壊する。

 一体の魔物に剣を突き刺したときだ。魔物に剣を掴まれてハルトの動きを封じる。

 そこを見計らったかのように、ハルトの背後に迫る魔物の姿があった。


「危ない!」 


 エリナを庇うカンナが叫んだ。


「へーき――〈鋼鉄硬化・足〉ッ!」


 ハルトは片足で二回ほど踏み鳴らすと、足に一瞬だけ赤みを帯びた揺らぎが発生する。そして、武器を持ったまま背後の魔物に、


「おらぁっ!」


 突き刺すような蹴りが魔物の腹部にめり込み、鈍く重い音とともに貫通した。そして、足を天高く振り上げて真正面の魔物の頭部に踵落としをおみまいした。


「ほえぇ……」


 たった一人で防衛して見せたハルトの戦いぶりにカンナは気の抜けた声が漏れる。

 リックも久々に見るハルトの戦いぶりに感心する中、魔物の群れが素通りしていった。


「俺の職業(ジョブ)は剣闘士。剣士だと思って近づいたら危険だぜ」


 剣闘士は、剣術と体術を主に扱う戦闘職だ。剣術を扱いながらも体術を織り交ぜてパワフルかつトリッキーな戦闘を得意としている。


 ただこの職業(ジョブ)を習得する者の多くは、単純で脳筋なところがあり、考えもなしに敵陣に突っ込んでいく悪癖がある。それで、ついた異名が〝砲弾〟だ。


「それにな」


 魔物が火炎魔法〈ファイアーボール〉を行使して放つが、ハルトは盾の装置を起動し、ガシャンと音を立てながら展開させ、大盾にして火炎魔法を防いだ。


「すごっ! なにそれ!」


 目の前で機械仕掛けの武器にカンナは目を輝かせた。


「こんなのもあるぜ」


 そう言ったハルトは展開した大盾を戻し、盾のスイッチを押すと鋸盤の刃が飛び出した。どういう仕組みで収納されていたのか不明な刃は鉤爪のように鋭く、斬られたらひとたまりもない。その盾のスターターを引くと、エンジン音を鳴り響かせた。


 ハルトはエンジンを断続的に吹かしながら丸鋸の回転を上げていく。


「そりゃ!」


 リックを通り抜けてきた魔物を容赦なく斬りつける。

 殴りつけるように、草木を薙ぎ払うかのように。

 ガリガリと斬り刻まれていく魔物は悲鳴を上げ、青黒い血飛沫を巻き散らす。


「領域内の魔物は血が飛び散ってもすぐに霧散するから助かるな。次は――」


 ハルトは丸鋸の回転を止め、盾に剣を根元まで突き刺す。

 カチン、とはまる音とともに剣の柄と刀身の三分の一が展開した。ハルトは最大出力で回転数を上げ、盾を手離して円を描くように振るう。遠心力で盾は剣先に移動し、次々と迫りくる魔物を薙ぎ払う。


「おらおらどしたぁ! そんなんじゃ俺は倒せないぜ!」


 最後の一体を両断し、地面に叩きつけられると同時に丸鋸の回転が止まる。


 ハルトは盾を持ち、根元に戻し、剣が元に戻り、引き抜いた。


「ふぅ。いっちょ上がりぃ」


 カンナから「おおっ!」と歓喜の拍手を貰いながら、ハルトはリックに視線を向ける。


「お前も突っ立ってないで戦えよ」

「いや、すまん。見ないうちに腕が鈍ってないかと思ってな」

「よく言うぜ。お前も腕落ちてないだろうな? 休憩がてら見せてもらうからな」


 ハルトはそう言ってカンナたちの隣に座って一息ついた。


「任せてくれ。むしろ残してくれてありがとうと言いたい」


 リックはそう言って収納魔法を行使し、残りの魔導巧機重鎧を装着する。

 少し楽になって顔を上げたエリナはリックが装備する姿を初めて見た。


「あれが、リックさんの武装……」


 鈍い銀色の武装が白に変わっていく。大盾から片手用展開式機械斧を抜刀した。

 リックが武器を構え、エリナの視界からリックが消える。

 その瞬間、金属音とともに魔物たちが宙を舞った。


 重量のある装備を身に纏い、大盾を携えながら尋常ではない速度で魔物たちを一掃していく。鉄壁の防御で、あの速度で体当たりされるだけでも致命傷になりうる威力だった。


 リックの動きは、まるで魔物の動きを完全に読んでいるかようにも見えた。魔法攻撃も、死角からの攻撃でさえ対応してみせた。


「ほぇ。映像では知ってたけど、あの武装すげぇな」

「でしょ? なにせ私が作った最高傑作だからね」

「マジで?」


 ハルトとカンナは呑気に会話をしながら戦闘を傍観していた。

 その間も、リックは傷つくことはない。魔物は動き続けるリックの餌食になっていく。

 それはもう、一方的な蹂躙だった。飛んでくる火の粉を払うかのように。


 エリナが初めて目にするリックの圧倒的な戦闘力。これほどまでの実力者が、これまでの冒険から手を抜き、どれだけエリナに足並みをそろえていたのかを知ることとなった。


 果てしなく遠い。そうエリナに思わせるほどに。


「おーい、リック。あれこの領域の主じゃねぇか?」


 エリナがリックの戦いに魅入っていた隣で、ハルトがそう言った。


「あれみたいだな」


 襲ってきた魔物を片づけ終わったリックは真正面からやってくる巨大な魔物を見て言う。

 異常に発達した腕。それとは対照的な小さい足。白亜の硬質な外皮と灰色の皮。魔物には顔はなく、頭部があってもそこだけは繰り抜かれたかのように空洞だった。


「ちょうど良い的だな。あれを試せそうだ」


 リックはそう言って武装パックの装置を動かし、魔導光線砲銃を手にする。銃を起動してロックを解除するとともにフレームが展開して銃口が現れた。

 リックは半身を前に出し、その銃を突き出すように構えた。


「――モード、フルファイア。チャージ開始」


 リックが持つ光線銃が徐々に蒸気が立ち昇る。


「チャージ完了――発射」


 リックは引き金を引いた。

 大人一人を簡単に飲みこむほどの巨大な光線が発射された。

 光線は周囲の魔物を巻き込んで主の上半身を消し飛ばした。


 ちりちり、と空気中で弾ける電気の音を最後に静寂が訪れる。光線銃の威力に驚愕して一同呆然とする。ハルトとカンナに至っては驚きすぎて口をあんぐりさせていた。


 パチン、と静寂の中に、光線銃から不良品となったカートリッジが排出される。

 無事に領域の主を討ち果たし、発生した領域は完全に消滅したのだった。




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