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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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54. 二つの新武器

 エリナが聖女となった翌日。

 リックとエリナの二人はセキネツ武具店に訪れていた。


「えぇ!? エリナちゃん聖女になったの!?」

「そうだな」


 昨日の出来事を話すと、試作魔導巧機重鎧00号機を動かしながらカンナは仰天した。

 両手を小さく広げて驚く動きが連動して魔導巧機重鎧もポーズをとる。

 やはり聖女ともなるとセキネツ武具店の兄妹全員が驚いた。


 だがまあ、さすがザルツブルグの住民というべきか、仰天ニュースは月一必ずあるからか、ひとしきり驚いた後はほぼ平常運転に戻っている。

 工房内のテーブルに頬杖をつくリックは、カンナの人形操術を見ていた。


「……。なんか、上達しすぎやしないか?」


 リックがそう訊くと、カンナは自慢げに胸を張る。


「ふふん。テレサさんにコツを教えてもらったんだよ」

「変なことじゃないだろうな?」


「変なこと? おかしなことを言うね。操作魔法の〈シンクロナイズ〉を教えてもらったんだよ。これなら一気に上達するって」


「それはまた、えげつない魔法を教えてもらったな」


 人形師が使用する操作系の魔法〈シンクロナイズ〉。操作する傀儡と完全に同期する魔法。使用することで百パーセント自分の行動を伝えることができ、人形が感じた物もすべて使用者に伝わるというもの。この魔法の怖いところは人形が受けたダメージが伝わること。死にはしないが、激痛が伴う。疑似的な死を体験できてしまう恐ろしい魔法である。


「戦う場合はその魔法は使うなよ」

「使わないって。いざというときだけ」


 カンナは魔導巧機重鎧と一緒に親指を立てた。なぜか安心より心配が勝つのは、彼女が無茶をするのことを知っているからか、リックから不安は消えなかった。


 まあ、無茶をしないことを信じて、リックはエリナたちに目を向ける。


「今度はどうだ? 注文どおり胸回りを重点的に調整してみたんだ」

「はい。前よりとても楽になりました。ありがとうございます」

「いいってことよ」


 エリナの装備を調整をしているところで、ボルトは最初の一回でその調整を終えたところだった。一度だけの調整で終えるボルトの仕事ぶりにリックは感嘆する。


「そうだ。リックに渡したい物があったんだ。こっちに来て」


 思い出したかのようにカンナは手招きされる。リックは湯飲みの緑茶を飲み干して立ち上がり、布を敷いた台座の前に案内された。

 そして、カンナは布を取り去り、見せたいものをリックに見せた。


「じゃじゃーん。新型の武器。片手用展開式機械戦斧。作ってみました!」


 台座に置かれていたのは機械仕掛けの武器だった。白い刃が輝く黒鉄の斧。長さを調整可能な柄。中央部分に斧刃が沈んでおり、展開することでせり出す仕組みになっていた。


 カンナに「使ってみて」と言われたリックは新しい武器を持って、柄の長さを変えながら素振り、仕掛けの起動と動作の確認、とやってみる。


「とてもいいな。アダマンタイトの重さがちょうどいい」


「大盾に収納可能だよ。斧はアダマンタイト製。振動系の術式のほかに、火炎系も追加してみました。魔力を通さないけど、発生した熱や力は伝わるから鉄も両断可能だよ」


「それはいいが、高熱によるアダマンタイトの軟化はしないか?」


「タングステンの融解温度でも硬度は保ったままだよ。赤熱したからって加工できるほど甘くないのさ。斧刃一枚作るだけで泣きそうになったもん」


 そりゃかかるわな、と遠い目をするカンナを見てリックは思った。この一瞬は一緒に冒険にいけなかったのも当然だ。アダマンタイトの加工すればそれくらいかかる。


「ホント、いつもありがとな。それでいくらくらいなんだ?」


 リックは片手用展開式機械戦斧の値段を訊く。


「うーん。そうだなぁ。……今回はいらないよ」

「え? いや、そうもいかないだろ。アダマンタイトだって希少だろ?」


 アダマンタイトはその加工の難しさから消費量が著しく少なく、世界的に見てもあまっているくらいだ。それでも一般人が手をつけられないほど高額なのは、その硬度と希少性がついているからである。政治的な部分を絡めるとより複雑な事情も絡んでくる金属だ。


「いやぁさ。今だからいけるけどさ。うちの祖父が冒険者時代に迷宮に潜りまくってアダマンタイトとか、ミスリルとかを採りまくってたらしくて。世界基準での年間採掘量でいうと両方とも約六五年分の材料があるんだよね。私たちが鍛冶師になった祝いで生前贈与されたけど、あの加工の難しさだからまだ一年分も消費してないんだ。それに使い始めたのリックからだから」


 言いづらいのか、目を泳がせながらに言うカンナ。そんな彼女の話を聞いているリックの脳内ではその祖父が一人で六五年分の鉱物を採掘していたことに驚きを隠せない。


「……。君の祖父は化物か?」


「リックが言うことかな? まあ、名のある冒険者だったらしいよ。鉱石とかを収集するのが大好きだったから目立つ活躍は少なかったみたいだけど、今はもう……」


 カンナの言葉が途切れて、リックは察した。


「そうか。この世にはもういないのか。一度は会って話をしてみたかったな」

「いや、新しく若ぇ嫁作って旅してるよ」

「あっ、すまん。勝手に殺してしまって」

「いいのいいの。まだまだ現世にこびりついてるドワーフだから」

「せめて長命って言ってやれ」


 カンナの家族内での祖父の扱いが垣間見えた瞬間だった。


「それに、飛行船を相談なしに買ったお礼参りだからね、それ。だから、受け取れ」

「命令形か。はい。ありがたく使わせていただきます」

「よろしい」


 その件に関してなにも言えないリックは素直に受け取った。


「今日はどうするの?」

「冒険にいこうと思ってる。この新しい武器の性能も試したいしな」


「それじゃ、今日は一緒にいこうかな。ずっとこもりっぱなしだったしね」

「わかった。最近は近場の依頼が多いからそれになるけど、いいか?」

「おっけー。最近多いよね。やっぱり〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟が頻繁に発生するからかなぁ」


 呑気にカンナはそう言って準備を始める。

 もう少し時間が経ったら冒険に出るか、と思いながらリックも準備を始めると、


「よっ、リック。一週間ぶり」

「ナットじゃないか。材料調達はうまくいったのか?」


 武器の材料調達で遠出していたナットが帰宅してきた。

 重そうな荷物を出口の隅に置き、そそくさとエリナに近づいていく。


「こんにちは。エリナちゃん。今日はいい天気だね」

「そうですね。ナットさん。先週は色々とありがとうございました」

「それくらいお安いもんよ」


 以前に常連客になるエリナを紹介した時から狙っている素振りを見せているるナット。無類の巨乳好きのこともあり、下半身がエリナと仲良くしようとしている状況だ。

 この状況には、ボルトもカンナも呆れている。


「それでさ。エリナちゃん。今度、二人っきりで食事でもどうかな?」

「それは、ちょっと……申し出は嬉しいのですが、お断りさせていただきます」

「リックのことか? いいじゃん。付き合ってるわけじゃないんだろ?」


 そう言ってナットはエリナとの距離を縮める。


「あの、困ります」

「いいじゃんさ。仲良くしようよ」


 少し困った表情を浮かべながらエリナは顔を反らす。

 それでもナットは諦めず、ぐっと詰め寄る。


「でないと……」

「ん? 出ないと、なんだ?」

「カンナさんの言いつけどおり、あなたを殺さなくてはいけません」

「……ふっ、まったく冗談がきついぜ。でも、カンナに言われてるならしょうがないか」


 恰好つけながら諦めたナットは、瞬間移動するかのように十メートルほど離れていた。

 カンナが実の兄に講じた対策である。エリナにはなにをしてもいい、と教育してあるため、限度を超えると躊躇なく攻撃する。初対面の時もナットは壁に磔にされていた。


「こりねぇな」

「ね?」


 とボルトとカンナは情けない長男を見て言った。


「やっていますか? 邪魔しますよーっと」


 すると、黒いコートを身に纏い、サングラスをつけ、フェルトハットを被った男が工房出口から顔を覗かせていた。その男は以前リックがお世話になった武器商人だった。


「カンザリーナか?」

「はい。お久しゅうございます。リック様。活躍は聞いていますよ。店番いなかったので勝手に入らせてもらいました」


 そう言いながらカンザリーナは、店主に「入ってもいいですか?」と許可を取って大きなアタッシュケースを持って工房内に入ってきた。


「あの、あの方は?」


 リックのそばに寄ってきたエリナは訊ねた。


「武器商人のカンザリーナ。以前、俺が銃を購入した時にお世話になった人だ」


 銃をメインに商売をしているカンザリーナ。元はセキネツ武具店と同じ鍛冶屋を経営していたらしいが、今は売買に力を入れている商人である。カンザリーナも職人らしいが、一族で高性能な武器しか作らないため、相手が限定されてしまうらしい。


「久しぶり、カンザリーナさん。リックの銃を届けに来た以来だね」

「カンナ様もお元気で。頭殴られたって聞いてましたから安心しました」

「ご心配どうも。このとおりピンピンしてます」


「それはよかった」

「それで? 今日はなにしに来たの?」

「なーに。ちょっとリックの旦那に商売しに来ただけさ」


 椅子に座って一息つくカンザリーナはそう言う。


「今日はなにを売りに来たんだ?」


 武器商人からの訪問販売に興味が湧くリックは準備の手を止めて訊いた。


「リック様のおかげで魔導軽機関銃が売れましてね。と言ってもあれよりランクダウンさせたものですが、潤った資金で新しい武器を開発しまして、それを売りに来ました」


 カンザリーナはそう言って大きなアタッシュケースを開ける。そこには、リックの所持している魔導軽機関銃とほんの少しデザインが変わったくらいの銃があった。


「これは最新技術で製造した魔導光線砲銃です。名は〈リパルサー17〉。魔力と術式を用いて発生、圧縮、収束させた高エネルギー弾を発射します。ライフルモード、マグナムモード、キャノンモード。どれも単発ですが、光線の太さとエネルギー消費量が違います。チャージによる高エネルギー砲を発射、薙ぎ払いも可能。ですが一度撃ってしまうとオーバーヒート、カートリッジが損傷するため、使用は控える必要があります」


 カンザリーナはそう言いながらカートリッジを十個ほどテーブルに置く。


「今や顧客であるリック様には、このカートリッジと以前購入していただいた魔導軽機関銃の点検を合わせて九九二万ユルドでどうでしょうか。今なら専属契約していただけると三〇パーセント値引きしますよ。いかがですか?」


 値段とその言葉を聞いてリックは天を仰いだ。最初から専属契約が狙いだったろ、と思いながらも、カンナにも強く押され、カンザリーナの提案(サービス)を受けて購入をしたのだった。


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