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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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46. エリナ・クラークロンド

 エリナ・クラークロンド。無名の寺院と呼ばれる施設から来たと言う女性。


 事情を聞くに、寺院を取り囲む今までなかった扉が現れたらしく、規律に縛られた日々に嫌気が差していたこともあって、思わず飛び出したらこの森へ出たらしい。


 扉は消えてしまい、ここがどこなのかもわからず、森を彷徨っていたとのこと。

 それも二日ほど。良く生きていたな、と思いながらレッドボアの解体をしながら話を聞いていたリックは一息ついた。


「事情はだいたい把握した。なら、一度ザルツブルグに立ち寄ったがいい。旅支度に必要な物がそろってる。とりあえず泊まる場所だな。おかねはいくら持っているんだ?」


「おか、ね?」

「えっ、まさか知らない?」


「すみません。寺院の外に出ることが許されなかったもので、なにがあって、なにが必要なのかがわからなくて。私にとって、目に映るものがすべて初めてな物ばかりで」


 シスターを外に出さないことはあるのだろうか、とリックは疑問に思った。

 物心ついた頃から寺院にいたらしいエリナ。そういうシスターがいる施設で孤児を預かることはあっても、成人して一人立ちさせるために教育させる。たとえシスターとして教会に身を置くにしても外出は可能だ。


 そもそも宗教関連に携わるにしても一人の人間だ。そんな自由が約束されない宗教なんてリックは聞いたことがない。唯一、心当たりがあるとすれば、旧時代の宗派くらいだ。


 もしエリナがいた施設がそうだとしたら? とリックは詮索してみるが、情報が少ないままでは判断が難しい、とひとまずこの件は置いておくことにした。


「わかった。これもなにかの縁だ。しばらくの間、俺が面倒を見よう」

「いいのですか?」


「右も左もわからない人を置き去りにするのは目覚めが悪いしな。それに、元シスターなら、神聖術師の冒険者になって金を稼ぐこともできる。そのノウハウも教えよう」


 そのまま放置するとエリナは確実に悲惨な目に合うのが目に見えている。一人の女性を面倒を見るくらいなら造作もない。


「……。ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 エリナは感謝の言葉を述べて、深々と頭を下げた。


「決まりだな。まずはザルツブルグに向かおう。もうじき日が暮れる」


 リックはそう言って、エリナを連れてザルツブルグへと戻った。


「よっ、お疲れさん。今日は一人なんだな」

「あっ、リックさんじゃないですか。そうなんですよ。急に腹を下しちゃって」


 空が朱色に染まる時刻。ザルツブルグの入り口。畑を簡易的な策で覆った外側にいる門番にリックは挨拶をすると、門番は朗らかな笑みを浮かべて挨拶を返した。


「それで討伐依頼でしたっけ? 成果は上々で?」

「まあな。一仕事終えてきたところだ」


 リックはギルドカードを見せながら言う。


「その討伐にいったわりには、良い娼婦も捕まえてきたようで?」

「発言には気をつけろよ。シスターだ」

「おっと! これは失礼しました!」


 門番は青ざめて素早く頭を下げた。

 エリナは「いえ、お気になさらず」と淡泊に謝罪を受け入れた。


「エリナは身分証がないが、通して大丈夫か?」

「リックさんのお連れさんなら大丈夫ですよ」

「無理を言ってすまんな」


「いえいえ。どうせ‶天啓の白書〟にさわらせてギルドカードも発行させるんでしょうし」

「まあな。これ、お土産な。もう一人の門番にもよろしく」

「あ、ありがとうございます! よろしく伝えておきますね!」


 会話も程々に、エリナを連れてリックはエレベーターに乗った。

 エリナにとって初めてのいうこともあってか、恐る恐るといった感じにエレベーターに乗り、動き出し始めるとリックの腕を掴むほどの動揺を見せた。


 新鮮な反応に、リックは微笑みながらも当たる柔らかい感触に少し戸惑う。

 ザルツブルグ内に入り、街中をエリナは見渡した。


「こっちだ」

「はい」


 リックは‶セキネツ武具店〟に立ち寄った。さすがに露出の多い服装は悪目立ちするので、神聖術師用の装備を購入した。本人はこのままで大丈夫だと言うが、多方面の防御力が心配なので半強制である。エリナが着ていた物に似た白を基調とした装備を選んだ。


「急にリックが来るなんてね。それもなかなかの別嬪さんまで連れてきて」


 店番をしている防具製作のボルトがカウンターに頬杖をつきながら言った。


「森で彷徨っているところを保護したんだ。その成り行きで面倒を見ようと思ってな」

「リックが放っては置けないってことは、相当な事情がありそうだ」

「そんな感じだ」


 今は亡き旧時代の宗派から逃げてきたシスター、と言ったらさすがに驚くだろうな、と思いながら、工房のほうを覗きこむ。


「そういえば、カンナはどうした?」

「ああ、ちょっと買い出しにいってもらってるんだ。用があるなら伝えておくぞ」

「なら頼む。エリナの力になってほしいんだ」

「あいよ」


 ボルトは快く了承してくれた。


「ところであの露出の多い服はどうするんだ? 売るなら高く買い取るぞ?」

「行きつけの娘にでも着させんのか?」


「冗談いうな! 勘違いされんだろ! 違うよ。あの服けっこう良い素材が使われてんだ。調べてみないとわからんが、もしかしたらさらに良い装備が作れるかもしれない」

「そうなのか? 聞いてみるよ」


 ちょうど話が終わる頃に、着替えを終えたエリナが顔を出した。


「着心地はどうだ? 違和感とかはあるかい?」


 防具製作のボルドはエリナに訊く。


「良い感じです。今まで着ていたのと少し重いですが、気になるほどではないです」


 装備の具合を確かめながらエリナはそう言った。


 露出は減ったが、身体のラインが出て別ベクトルの領域を刺激させる。シスター服を彷彿とさせる冒険者専用戦闘服の。ローブの両側の深いスリットから覗かせる太腿とガーターベルト。そしてロングブーツ。エリナに合うように仕立てたボルト装備セットである。


「どうでしょうか?」

「良いと思う」


 リックは親指を立てた。


「エリナの服を買い取りたいとボルトから申し出があったんだが、どうする? 嫌なら断っても大丈夫だけど」

「売ってしまって構いません」


「即決だな」

「寒い日もあの恰好でしたので、あまり良い思い出がなくて」


 エリナは淡々とそう言った。


「そうか。なら、良い値で買い取ってやろうかな!」


 ボルトはそう言って素早く服を査定し、貨幣袋をエリナに手渡した。


「……。これ、どうぞ」


 エリナは少し考えたのち、リックに渡そうとする。


「いや、お前のだろ」

「ですが、買ってもらった物の代金が」

「それは出世払いで良い。とりあえず、神聖術師の杖を買っとくか」


 リックはそう言いながら店内に置いてあった手頃な神聖術師の杖も購入した。


 面倒を見ると決めたのに、貰ってしまったら意味がない。まともな教育、というより、施設から一度も出ることを許されなかったエリナには偏った教育を施さているのではないかとリックは懸念している。一連の言動からそんな感じがしたから。


 彼女はシスターだ。教え込まれたものが、べつの宗派とトラブルになる可能性も秘めいているし、頼れる人がいない彼女は悪意ある者の格好の餌だ。


 心配だ、とリックは本心から思う。


「……、わかりました。ありがとうございます。いずれ、お返しします」


 渋々といった感じで納得してくれたエリナは杖を渡した。


「さて、次はギルドのほうにいくか。ナットとカンナによろしくな」

「あいよー」


 リックはそう言ってエリナを連れてギルドに向かった。


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