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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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42. 災害、白漂領域

 白漂領域(ヴァイスフィールド)――それは自然の魔力暴走によって起こる災害である。


 周辺地域から脱色されたかのように世界の色が落ち、地面からはコールタールのようなものが天へ向かって零れ落ち、靄がかかり、黒い粒子が舞い始める。

 発生した場合、このような状態が起きる。


 そして、この領域内に現れた白い触手のようなものに侵食された生物は体から色が抜け落ち、くすんだ色となり〝白い魔物〟と呼ばれる凶暴な存在へと成り果てる。


 閉じるには、核となる白い魔物、領域の主を討伐しなければならない。危険を伴う戦いになるが、べつに利益がないわけではない。


 この領域のみに採取できる〝白い魔石〟と〝白結晶〟。現存する魔石の中で、より純粋な魔力が結晶化している。あらゆる用途で使用できるこの資源は高額で取引されている。


 その前に、領域を閉じないかぎり、徐々に拡大していき、人類の滅亡、なんて、今は現実味のない事実が世界を飲み込んでいく。猶予は約一年。この期間をすぎると領域を閉じるのは実質不可能となる。その辺にある高ランクの迷宮よりたちが悪い。


 誰もが言う。迷宮が地底の魔力の汲み上げ機能を持つ魔物だとしたら、白漂領域(ヴァイスフィールド)は世界を侵食する白カビの魔物だと。



 ――



 アルトラン公国。交易都市〈ハランタラ〉。ブルース地方北部に位置し、魔境に位置しないことで、強力な魔物が少なく、まあまあ安全な交易の流通ルートとなっている。


 結果的に、ミガル王国とザルツブルグを繋ぐ唯一の道と合流するわけだが、国同士、その他組織の折り合いの悪さはまたべつのお話だ。


 現在、交易都市〈ハランタラ〉は、とつじょ発生した白漂領域の脅威に晒されていた。


『白い魔物の進行が激しい! 冒険者だけでは持ちそうにない!』

『こちら対策本部。現在、兵の編成を行っている。もう少し持ちこたえてほしい』

『これ以上は無理だ! 近くにザルツブルグの冒険者はいないのか!』

『隊長! これ以上は持ちこたえられません!』

『ぐぬぬ……、ん? あの飛行船はもしや』


 通信が飛び交うハランタラ付近から、赤い閃光弾が打ち上がった。


「ねえ、救援要請の信号弾をが上がったんだけどぅ」


 小型飛行船から眺めていたカンナ・ウォールマンが料理している冒険者にそう言った。


「えっ、マジ? いまちょうどできあがったんだけど?」


 そう言いながら調理場から三角巾を被り、上裸でふりふりエプロン姿のリック・ガルートンが驚いた様子で顔を出す。手には大皿にサンドイッチが山のように盛られていた。


「リック……、その恰好はどうかと思う」

「やはり男が着ると違和感があるか」


「いや、リックの場合、顔が女よりだから余計に、その、なんだ……付き合いたてのはっちゃけ変態カップルの女っぽい。ご飯と一緒に私もどうぞ、的な」


「男性向け漫画の読みすぎだろ」

「世の男性ならその顔面とその恰好なら即いただきます、ってなるよ」

「望むなら、女にモテたいよ」


 リックはそう言いながら料理をテーブルに置く。操縦席では「もうモテてんじゃん」とカンナがぼそりと呟いた。


「それでどうする?」

「向おう。ブルース地方のとはいえ、他人事ではないし。それに、白漂領域での長期戦は体にも良くない。できるだけ早く終わらせたほうがいい」


 窓から領域を確認しながらリックはそう言った。


「りょーかい。点検のために魔導巧機重鎧(まどうこうきじゅうがい)はコンテナに固定してたから、そのまま切り離すよ。装着は空中でおねがい」


「わかった」


 エプロンと三角巾を脱いだリックは『鉄人』と書かれたダサTに腕を通して、飛行船の出口を開ける。入りこんでくる強風を呷られながらリックは勢いよく飛び出した。


 それと同時に飛行船のコンテナが開き、リックの武装パックが換装状態の魔導巧機重鎧が姿を現し、全身固定台から切り離されて投下される。


 リックは両手を広げ、落下速度を調整しながら自分の武装と距離を詰める。

 防具は空洞だというのに外部骨格のせいで石造のように微動だにしない武装にリックは触れた。そして、収納魔法を行使して中に入りこむ。


 魔導巧機重鎧を起動し、外部骨格と装甲の完全装着を行う。わずかな隙間が空いていたパーツたちは接着し、兜の疑似視覚とリックの人工魔眼が連動するとともに光が灯る。


「コードF」


 リックがそう唱えると、装甲に塗られた透明な特殊塗料が白へと変色する。


 微動だにしなかった防具はリックとともに動き出し、体勢を整えて領域内に着地する。


 ドゴンッ、と砲弾が着弾したかのような衝突音を響かせながら、リックは走り出す。徐々に速度を上げていき、負傷した冒険者を襲う獣型の魔物を時速二○○キロで轢く。


 ガンッ、と鈍い金属音とともに魔物は糸が切れた人形のように宙へ舞い、地面に転げ落ちる。呆気に取られる冒険者を過ぎ去り、次々と魔物を轢いて領域の中心へと到着する。


「――――〈フルヘイト〉」


 リックは、意識を強制的に引き寄せるスキルを最大出力、広範囲に発動する。空気を振動させてスキルは広がり、魔物の意識が冒険者から離れてリックへと向かう。


「見ろ。リック・ガルートンだ」

「信号を見て来てくれたんだ! これならなんとかなるぞ!」

「安心してねぇで、少しでも負担を減らせ! 意識が向いてねぇうちに討つんだ!」


 冒険者の士気が上がるなか、リックは魔力操作で武装パックの装置を動かす。掴みやすい位置に来た魔導軽機関銃〈ヴォルグ04〉を手に取り、セーフティを解除し、銃身を覆う外装が展開して銃口が現れる。そして、照準を魔物に合わせ、銃撃開始。


 設定、弾速一五〇〇発。正確に照準を合わせ、銃口を魔物から魔物へと流す。

 弾丸を逃れて間合いに入った魔物は大盾や魔導軽機関銃で殴り飛ばす。


(右に三、左に四、後方三、正面から五。間合いに入られるまでがおよそ三秒)


 敵地の中心ということもあって数は計り知れない。銃では捌き切れないと判断したリックは魔導軽機関銃を武装パックに戻し、カートリッジ式蓄積魔導剣を引き抜く。そして、間合いに入る魔物を蓄積魔導剣と大盾で応戦する。


 カートリッジ式蓄積魔導剣は、使用するたびに闘気が溜まっていく仕様だ。リックのスキル〈蓄積装甲〉で溜まった闘気を移すこともできる。


「――〈闘気圧縮〉」


 リックはスキルと発動して蓄積魔導剣に溜まった闘気を圧縮する。そして。


「――〈闘気強化〉


 大盾を〈蓄積装甲〉で溜まった闘気を使って強化する。

 群がる魔物。捌き切れない数が押し寄せる中、冷静に大盾で押しのけ、リックはタイミングを見計らい、真上に向けて跳躍した。


「――〈闘気解放〉ッ! 〈シールドインパクト〉ッ!」


 重力に赴くままに真下へ落下したリックは、衝撃波を引き起こすスキルを最大出力で地面に叩きつけた。瞬間、爆発のような衝撃波が群がる魔物を吹き飛ばす。


 その威力は地面にクレーターを作り、魔物が絶命するほどだった。

 リックは手を止めず、


「――〈闘気解放〉、〈チャージスラッシュ〉ッ!」


 カートリッジ式蓄積魔導剣に最大まで溜まった闘気を解放し、魔物が密集する場所に向けて地面に叩きつけるようにスキルを放った。


 これだけでもかなりの数が減ったが、リックは止まらない。土埃が舞って視界が悪い中で走り出し、索敵スキルのみで敵の輪郭を掴み、減らしていく。


 リックは高速で動く巨大な弾丸だ。大盾を構えた状態での突進、剣による斬撃を踏まえ、全身を覆う鋼鉄の鎧は魔物を轢き殺すには十分な威力を発揮した。


 殺戮装甲車両、そんな異名があってもおかしくはないほどに。


 程なくして、領域の主、顔が空洞の白い竜型魔物を発見した。


 カートリッジ式蓄積魔導剣では太刀打ちできないと判断して武装パックに戻し、大盾から振動系の術式が組み込まれた片手戦斧を引き抜き、主を攻撃した。


 腕を軽々と斬り裂き、攻撃が通ることを判断したリックはスキルを駆使して戦う。硬い装甲のような魔物を斬り裂き、魔物の攻撃を大盾で受け流し、時には受け止める。


 叩きつけられる魔物の腕を受け止め、鍔釣り合いのはてに押し返す。

 よろめいたときに一瞬下がった頭部を見逃さず〈シールドインパクト〉をお見舞いする。跳ね上がってのけ反り、再び降りてきた頭部を同じスキルを直撃させる。


 そして、片手戦斧による〈チャージスラッシュ〉で首を斬りつけ、さらに大盾のソードバンカーを展開し、〈シールドスラッシュ〉で首を斬り落とした。


「領域の主にしては呆気なかったな。まあ、生まれたてならそうか」


 リックは武器を大盾に収納しながら淡々と呟いた。

 領域の主は白い魔石と結晶を落とし、塵となって消滅した。


 主が倒されたことで白漂領域(ヴァイスフィールド)も消滅し、世界に元の色が戻っていく。

 その光景を見つめながらリックは一息ついた。


「ご助力感謝する。リック・ガルートン。あなたのおかげで死傷者が出ずに済みました」

「それならよかった」


 リックは駆け寄ってきた討伐隊の代表らしき冒険者にそう言った。


「今回の白漂領域の消滅にご協力してくれた報酬は、後日ギルドを仲介してリックさんの共有口座に振り込みます。面倒な手続きはこちらで承ります」


「お願いします」

「それで、この後はどうしますか? 乗っていた飛行船が下りてくるまで待機するのでしたら、休める場所を用意しますが」


「このまま飛んで帰る。待機してる間に群がられても仕方がないからな」

「それもそうですね。それでは、お気をつけて」 

「そちらも」


 リックは重力魔法と風魔法を同時に行使し、背中の高出力スラスターを展開と同時に跳躍して、徐々に遠ざかっていく小型飛行船に向けて帰った。

 その数日後、共有口座に目ん玉が飛び出るような褒賞金が振り込まれた。


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