40. エピローグ
サブルトラック商会の騒動は冒険者と騎士団の協力によって幕を閉じた。
主犯であるオッサムは違法売買、殺人未遂、強盗ならびに強盗致傷、ゴーレムほか武器の違法製造、その他もろもろを合わせて逮捕され、現在は集中治療室にて療養中である。
サブルトラックザルツブルグ支店の従業員、雇われた冒険者も確保されたらしい。こうして事件は収束し、この話題も少しずつ薄れつつあった。
今回、サブルトラック商会は、多額の賠償金を請求されたらしく、ゴーレムに使用された希少金属、支店の財産すべて没収された。
おそらくそのほとんどは都市の修復に補填される。まあ、壊れた物体を元に戻す時間操作系の魔法が使える魔法使いはいくらでもいるので、あまり費用はかからないと思うが、迷惑料として正規の手順で取れるだけ取ったという感じだ。
そしてその迷惑料は、今回の事件に貢献した者たちへの報償金として支払われた。
当然リックたちにもだ。ゴーレムの素材売却金六割、と事件解決に貢献した報償金を合わせてかなりの額となっている。目が点になるほどに。
『昨日未明、ザルツブルグ郊外で男女混合のパーティと思わしき冒険者が、公衆の面前でみだれまくった行為に及んだと通報が入り、駆けつけた騎士団が許容範囲を逸脱する行為と判断し、公然わいせつ罪で全員現行犯逮捕されました。続きまして――――』
セキネツ武具店の休憩室。食事後のリックとカンナの二人はだらんとソファに背を預けながら大画面の薄型テレビに移されるニュースを眺めていた。
「この二ヵ月、色々とあったよねぇ」
「そうだな。まさか追放されてからこんな目に合うとは思わなかった」
「竜なんてもう論外だよ。しかも一生に一度見れるかわからないやつ」
「あー、あれはヤバかったな。下手したらカンナが死んでたからな」
「あー、確かにあれはヤバかった。あの時よく生きてたよねぇ」
飲み物を飲むカンナは言葉を続ける。
「でも、あの竜と出会わなかったら、リックの防具を作ろうとは思わなかった。人生の中で一番の最高傑作になったよ」
「使用者だからわかるが、あれは本当にすごい。正直、ギルドに武具の登録する前に実戦投入したから、なにか言われるかとひやひやしたもんだ」
「ええ、そこぉ? もっとほかにここがすごい、とかないの?」
「アメリアの小言とイコールにはできないだろ」
「うげっ、それもそうか」
アメリアにこってり絞られたことのあるカンナは顔を引き攣らせた。
『今回のサブルトラック商会会長オッサムの暴走事件において、王都の本店から正式に謝罪がされ、賠償金の支払いに合意しました。――――今回の事件を受け、都市内の管理に問題があるのではないか、と一部からは問題を指摘する声もあり――――』
その間、ニュースにはあのサブルトラック商会に関して報道されていた。
「あの商会も偶然とはいえ、色々あったよねぇ」
「目をつけられてからが修羅場だったな」
「元パーティメンバーをけしかけてきたもんね。あれたぶん、技術を盗みたいのが目に見えたし。素材もそうだけど、あの防具がなかったらこんなことにはならなかったかもしれないと思うと、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな、って思っちゃうんだよね」
「だが、あの防具製作が、俺にとって一番の転換期になったのは確かだ。カンナが提案してくれた武具があるから今がある気がする。もうカンナなしではもうなにもできない」
「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
リックの言葉にカンナは嬉しそうに肩を、バシッ、と叩いた。
「と言っても私もそうだけどね。リックなしではもう仕事できないよ。セキネツ武具店には色々と投資してくれたしね。あの防具もリックがいて製作できたわけだし」
「持ちつ持たれつの関係だな。いや、それ以上か」
「一蓮托生、ってやつだね。今後ともどうぞご引きに。相棒」
「今後ともよろしくな。相棒」
少しこそばゆさを感じるやり取りを終えて、カンナは両腕を上げて背伸びをした。
「ああ、食べたら眠くなってきた」
「最近まで忙しかったからな。無理しないで寝たほうがいい」
「それもそうだね。それじゃ、遠慮なく」
そう言ってカンナはリックに寄りかかる。
「眠いなら、ベッドで寝たほうがいいんじゃないか?」
「いいの、これで。少しの間だけだから……」
「……、」
目をつむり、眠りにつくカンナを横目にリックは、どうしようか、とニュースに目を移す。だが、自分も徐々に眠くなってきたリックは目をつむる。
目まぐるしい日々が続いたからか、眠気が心地よい。明日も冒険者としてのリックが始まる。忙しくなるか、暇になるかはその日次第だが、冒険に出ることは変わらない。
リックにはこれといった目的はない。ただ惰性的に冒険を続けている。
目的を失い、パーティから追放されて、いつのまにかS級になった。
S級冒険者になっても、世界の秘密を解き明かしたいとか、世界に野放しになっている大悪党を打倒とか、おとぎ話のような神話生物と渡り合いとか、そんな願望はない。
だが、今はそれでいいとリックは思っている。
出稼ぎで始めた冒険者家業だが、今の生活を気に入っている。
ここはザルツブルグ。世界に類を見ない魔境に位置する都市だ。リックの力が必要になる時はあるだろうし、今が暇なだけできっと目まぐるしい日がやってくる。
それまでは呑気に何気ない日常を送ろうとリックは思う。なにかが起これば目的の一つや二つくらいできるだろう、とそんな淡い期待を抱きながらリックは眠りについた。
こうして、リックたちの一日が終わる。
静かに、穏やかに。
――――
二人が眠りについた頃、
「付き合えぇ……付き合えぇ…………」
「うっ、ううぅ……」
リックの耳元で雑誌を丸めて呪いのごとく囁くナットの姿があった。どうしても二人をくっつけたい彼は懸命に、サキュバスになったつもりで囁いている。
それを偶然とおりかかったボルトが冷たい目で見ていた。
「なにをしてんだ? 兄ちゃん」
「あ、ボルトか。いやぁ、どうしても二人をくっつけたくてな。ほら、二人とも仲いいし、これはワンチャンあると思って、おにいちゃんは一肌脱ぎたくてな」
「そんなことやってないで、嫁探してこいよ」
「あっ、お前もそれを言うか! まあいいさ。二人がくっつけばこっちもんだ」
そう言ってナットは呪いの囁きを再開する。
その姿に呆れたボルトは、背後から工具で実の兄の頭部を殴打し、気絶させてガラクタ置き場に投げこみ、店番に戻った。
「兄ちゃんはせっかちすぎなんだよ。まったく」
ボルトは溜息を吐き、
「世の中には、時間をかけてじっくり育まれていくモンもあるんだよ」
カウンターに肘をつきながらそう呟いた。




