4. 準備と過程
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交易と冒険者の都〈ザルツブルグ〉。
なだらかな山の段丘を中心にして広がる都市。麓は約三〇メートルの断崖絶壁となっており、魔物が多い土地で自然の城壁として機能している。まあ、地盤が固いとはいえ崩落も考慮し、厚さ一メートルの人口の壁で覆ってはいるが。
魔力濃度の高い土地で未開拓領域と隣接。その領域も含め、周辺には自然に飲み込まれた古代遺跡とダンジョンと化した場所が多く散見される。
そのことも含め、魔石や素材、財宝、その他もろもろの収集物が豊富なため、多くの冒険者たちがこの都市に集まってくる。交易も盛んで、魔石や素材、魔道具などを輸出したり、逆に他国から様々な物品を輸入している。
冒険者の収集物が、都市の利益として成り立っているといっては過言ではない。そのため冒険者に必要不可欠なもの、役立つものがそろっている。
単独活動を決断したリックだが、本来パーティが補っていた役割を一人でやっていくことになる。そのためには準備が必要だ。
最初に向かった場所は、三兄妹が経営する〝セキネツ武具店〟だ。
「いらっしゃい。おっ? リックの旦那じゃねぇか。今日はどうしたんだ?」
最初に出迎えてくれたのは、長男のナットだった。
「武具の新調と改造をしようと思ってな」
「なんでまた急に?」
「前のパーティから追い出されてな。一人で活動をすることにしたんだ」
「そりゃまた大変だな。待ってろ全員呼んでくるわ」
「頼む」
そう言ってナットは店の奥に引っ込んだ。この店はやや明るい灰色の髪と翡翠の瞳が特徴的な三兄妹、長男のナット、次男のボルト、長女のカンナが経営している。
まずは武器製作担当のナットだ。
「片手で振れる剣と、あと……多過ぎないか?」
「ある程度かんがえてる。武器も防具もぜんぶ魔導具にするつもりだ」
「そうか。こっちはカンナと相談だな。わかった。この注文でやるよ」
次に防具製作担当のボルトだ。
「重戦士で無茶なことやろうとしてるねぇ。マントはいらねぇのか?」
「マントはいらん。腰回りを覆うコートだけでいい」
「そうかい。あっ、せっかくなら竜の素材を使ってみるか? 良いのがあるんだ」
「わかった。使ってみよう」
「あと、値は張るけど鎧とかの素材も、俺特製のミスリルチタン合金を使ってみるか? 重量も抑えられるし、魔力伝導率も極めて高くなる。魔道具にするならちょうどいいと思う」
「いいな。それも頼む」
「あいよ。本当ならこっちの重戦士用の鎧を着て欲しかったがな」
ボルトが、カンカン、と厚みのある装甲で作られた鎧を叩いた。
「嫌だよ。それけっこう幅とるだろ」
肩幅だけでも二人分ある鎧なんて着たくないリックだった。
その次に機械&魔導具製作担当のカンナだ。
「提案なんだけど、有人搭乗機ゴーレムの要素も鎧に足してみる?」
「有人搭乗機ゴーレムって、大型の魔物討伐用に開発されたデカい人型兵器のことか?」
「そう。こっちはその技術を応用して鎧をパワーアップさせる。あとは武装に機構をつけるかな。もちろん、君の身体能力に影響が出ないようにするつもり。やるとしたら身体にかかる負荷の軽減、関節部分の補助。その他もろもろ。あとは術式と回路、それと魔法陣をしこたま仕込んでリックだけの〝リック専用 魔導巧機重鎧〟の完成だよ」
「ロマンのぜんぶ乗せみたいでかっこいいな。その路線でいこう」
リックは即断即決した。ロマンには勝てない。
「それでものは相談なんだけど、これに〝魔核石〟を使いたいんだけど、なにか良いの持ってないかな? できれば、無属性のがいいかな」
カンナが言う〝魔核石〟というのは魔石の一種。普通の魔石とは違い、魔力を増幅させる力がある。この魔石を持つ魔物は魔法を使ってきたりする。
「なら、この前の岩竜から手に入った〝魔核石〟がある。それでもいいか?」
「いいね。それなら防御力の上昇効果があるかもね」
「あとなにか必要な物はあるか?」
「大丈夫だよ。あ、もう一つあった」
カンナはそう言いながらあるブーツを持ってきた。
「これ履いてみて。高出力の風魔法で飛ぶことのできるブーツ。足の裏に魔石を埋め込んであるの。ちょっと靴底が上がるけど違和感はそれほどないと思う。せっかくだからこれも入れて、背中に高出力スラスターを搭載して飛べるようにしちゃおう」
「おおぉ……いいな。それも入れよう」
そう言いながらリックはブーツを履いて起動する。瞬間、瞬間移動のように消えて天井を突き破った。防護服を装着してない状態で地面に落ちた。
リックは大怪我を負った。
――
武具店で注文を終えたリックが次に向かったのは〝ババルン魔法店〟だ。
「いらっしゃい。りっくんが来るなんて珍しいね」
店内に入ると、とんがり帽子を被った魔法使いのお姉さんが出迎えてくれた。
「わけあって一人で冒険することになったんだ」
「あら、大変ね。それじゃ新しい門出を祝ってお安くしとこうかしら」
「助かる」
リックはそう言いながら近くの本棚から〝電撃の魔導書〟と〝重力魔法の魔導書〟を手に取り、カウンターに置いた。
「あら、その様子だと四大魔法を上級まで習得したのかい? 重力と電撃……なにやら面白いことをしようとしてるようだね」
「そんなところだ」
「魔法の併用は難しいわよ」
「まあ、うまくやってみるさ」
「ふふっ、期待してるわよ」
二〇パーセント引きにしてくれた魔導書を購入して早々に店を出た。
それでも高額商品には変わりはないが。
――
次にリックが訪れたのは〝サンマリン魔導具店〟だった。
小太りの中年男性、フロウ・サンマリンが店主をしている店だ。
「うちに来なくてもカンナちゃんに任せればよかったのでは?」
「カンナは魔導具といっても武具や機械が専門だ。便利道具はここにかぎる」
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいのですが。カンナちゃんがねぇ」
「なにか問題があったか?」
「いえ、なんでも。それで、どんなご要望で?」
フロウは首を横に振って営業スマイルをリックに向けた。
リックは傾げながらも本来の目的に戻る。
「大容量の魔法鞄をいくつか、それと――」
目的の品を購入したリックは、次の店に向かった。
――
次にリックが訪れたのは〝ノルンの魔法薬店〟
錬金術師のノルンが営む魔法薬専門店だ。
「いらっしゃい。おや? 珍しいね。リックがここに来るなんて。あの神聖術師の聖女ちゃんがどっかに呼び出されたのか?」
「いや、わけあって一人で冒険者業をやることになってな。活動のために準備をしているところだ。魔法が使えても魔力が枯渇したら元も子もないからな」
「そうかい。なんなら今日はお安くしとくよ」
安くなる、といっても魔法薬は一万は軽く超える。大抵は大怪我をするか、冒険者でもやってないかぎりあまり縁がない魔法の品物である。
「それじゃ、治癒薬と、解毒薬、魔力回復薬を、飲薬と塗薬タイプをそれぞれ三つずつ」
「あいよ。サービスで一本ずつつけとくよ」
「助かる。いつもありがとな」
「リックには世話になってるからね。また薬の材料を売りに来てくれよ」
「わかった」
魔法薬を購入したリックは、会話もそこそこに店を出た。
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