39. 決着
「まだ向かってくるか。リック・ガルートンっ! また殴り飛ばしやる!」
まっすぐ向かってくるリックにオッサムも距離を詰める。双方の間合いに入った瞬間、伸ばした大盾と鉄拳がぶつかり合う。響く金属の重低音。衝突によって生み出された衝撃波が周囲のガラスをすべて破壊した。
そして、押し負けたオッサムのゴーレムがのけ反った。
「なっ!」
さらに拳の装甲が剥がれ落ちたことによってオッサムは驚いた。それに対してリックは、目覚めた力が働いていることに兜の中で思わず笑みが零れた。
「ふむ。先程とは全然違うな」
「な、なぜだ! さっきまで小石のように飛んでいたのに、なぜ!?」
「〈冥峰竜の恩恵〉……今しがた覚醒したコアスキルだ」
コアスキル。それは職業やユニークスキルとは、一線を画す力。異能と言ってもいい。その力はステータス、及び職業やスキルに影響を与える。
リックが覚醒させたスキル〈冥峰竜の恩恵〉は、冥峰竜の能力がそのままリックに上書きしたようなスキルだ。目につくもので、防御力、機動力、攻撃力の上昇、反射がある。どれもリックのステータスをさらに引き伸ばしただけだが、これはステータスのみの話だ。
その中の反射だが、自分の防御を下回る相手の攻撃は跳ね返すし、自分の攻撃はこちらに伝わる衝撃すら跳ね返して攻撃力に拍車をかける凶悪なものとなっている。
オッサムのゴーレムも、冥峰竜の魔核石が使用されていたとき、反射も含めて冥峰竜の力が発揮されていた。リックがダメージが負ったのもこれが原因である。
「コアスキルだと!? ……そうか〝深淵の虚書〟の力か!」
「ご名答」
まさかユニークスキルではなくてコアスキルが発現するとはリックは思ってもみなかった。コアスキルは先天的なものなので、普通なら縁のないスキル名。ユニークスキルを発現させる〝深淵の虚書〟がコアスキルを創り出す力を持っていたことに驚きを隠せない。
「だが、こちらの似たような力が発動しているはずだ!」
「俺の鎧が稼働している時点でわからないのか?」
「――ッ、まさか!」
オッサムは慌てながらゴーレムを操作して魔核石がはめ込まれた部分に手を当てた。
「すり替えたんだ。収納魔法を利用してな」
「くっ! だったらどうしたというんだ! 私のゴーレムはまだ動いてるぞ!」
「そのようだな」
オッサムはリックに向けて走り出し、リックはそう言って大盾を構える。
肉薄する鉄の巨像が外装の剥がれた腕で殴りかかり、それをリックは大盾で防いだ。響く金属、衝撃波が引き起こされないように反射の力を押えたが、衝撃が跳ね返ってゴーレムの拳に伝わる感触をリックは盾ごしに感じながら次の攻撃に身構える。
次、また次の拳を大盾で防ぐ。一瞬よろめいたゴーレムは体勢を立て直して
「うっ、腕が!」
片腕の外装はリックが行使した魔法攻撃の影響で壊れていた。動くからと振るっていた拳だが、次第にダメージが蓄積されていき、装甲が徐々に剥がれ落ちていった。
その間、リックは反撃すらしていない。
「大丈夫か? 片腕が壊れそうになっているようだが?」
「うるせぇ! ちょっと装甲が剥がれただけじゃねぇか! 私はまだやれるぞ!」
「――〈シールドバッシュ!〉」
オッサムが叫び、突き出されたゴーレムの拳を、リックは大盾を突き出してその攻撃を見事に跳ねのける。そして、完全に押し負けたゴーレムは大きくのけ反って後退する。
ゴーレムの出力は徐々に落ちかけており、岩竜の魔核石ではあの巨体を動かすには少し弱いようだ。時間経過でゴーレムが沈黙するのを待ってもいいが、それではリックの気が済まないし、さらに都市に被害を考えると放置はすることはできない。
「そろそろ反撃といこうか」
リックは一息つきながらそう言って走り出した。一気に距離を詰め、体勢に立て直したゴーレムの攻撃を回避し、懐に入り込み、大盾でぶん殴る。
ゴオォンッ、と金属音が鳴り響き、ゴーレムがよろめく。
魔力操作でウェポンパックを動かし、左側武装の装置がカートリッジ式蓄積魔導剣を掴める位置に移動させ、マグネットロック技術で連結する固定鞘から剣をリックは掴み、魔力信号を送って装置から引き抜いて装備する。
掴みかかってきたゴーレムの腕を斬り上げる。ミスリルとアダマンタイトの合金装甲が斬れることはないが、ゴーレムの攻撃をいなすことはできる。それに、装甲の隙間から露出する硬い金属筋繊維ならリックでも切断可能である。
「――〈ロールスラッシュ〉ッ!」
リックは剣スキルの回転斬りをゴーレムの足を斬りつけ、
「――〈シールドスラッシュ〉!」
さらに盾スキルを使用し、大盾に取り付けられた剣を展開して足を薙ぎ払った。
攻撃と同時に魔法〈ミステリアルパースト〉を併用したことにより、装甲の脆い部分を破壊することに成功した。
露出した片足の金属筋繊維に大盾の剣を突き刺そうとするが、オッサムが足を引っ込めて回避し、拳を振るってリックを遠ざける。
「――〈シールドブロー〉ッ!」
バックステップで回避したリックは地面を踏み込み、ゴーレムに向けて跳躍し、大盾の剣を収納し、持ち手の装置を動かして位置を変え、頭部をぶん殴り、
「――〈シールドスラッシュ〉ッ!」
さらにスキルと連結させて回転攻撃を頭部を殴った。最初の攻撃で頭部は変形していたが、追撃によってさらに頭部の半分が歪んで潰れる。
そして、ゴーレムは攻撃の勢いに負けて倒れた。
「ふむ。〈ミステリアルバースト〉を使っていたとはいえ、頭部装甲の材料は魔鉄なのか。道理で簡単に歪むはずだ。そっちに使えよ」
「魔鉄が簡単に歪むはずがないだろうが! テメェどんな馬鹿力してんだァ!」
オッサムがそう叫んで起き上がり、リックに殴りかかる。
「――〈シールドインパクト〉ッ!」
リックの放ったスキルでゴーレムは吹き飛ばされ、建物に激突した。
「あっ、やっべ」
リックは思わず言葉を漏らす。都市を守るはずが、勢いあまって建物の破壊に貢献してしまった。都市から請求されなければいいな、と思いながらリックはゴーレムに走り出す。
このままいけばオッサムは確実に倒せるだろう。だが、それを悟っているのは本人もだ。ただでは終われない。気に食わないリックに、この都市に、一泡吹かせてからなりふり構わない最悪の手段を。
「くっ! こうなったらヤケだ!」
立ち上がったオッサムは、呑気に歯磨きする人が顔を出す建物の一部を破壊し、自分より大きなそれをゴーレムの関節から異音を鳴らしながら持ち上げる。
「重戦士なら、これでも住民を守れるかァッ!」
オッサムは建物の一部を、リックではなく後方の避難中の住民めがけて投げた。巨大なな瓦礫はリックの頭上を通り抜け、住民へと放物線を描いて向かっていく。反応が遅れたリックは建物の一部を見送ってしまった。
「どうする、リック・ガルートンッ! S級なら止めてみせろ!」
リックの足では、どう足掻いても間に合わない距離まで遠ざかっていた。
「――〈冥峰竜の始動・加速〉ッ!」
リックはウェポンパックに魔導剣を戻し、コアスキルによって新たに習得したスキル〈冥峰竜の始動・加速〉を発動して走り出し、一瞬で建物の一部を追い越し、滑り込むように踵を返して大盾で受け止めた。それと同時に防御魔法〈バリア〉を展開し、空中分解していった瓦礫から住民を守った。
呆気にとられる住民の目の前で〈バリア〉で防いだ瓦礫が、ごとり、と落ちる。
一呼吸おいて、リックはオッサムに視線を向けて走りだす。
その視線を悪寒として察知したオッサムは狼狽した。
(だ、ダメだ! このままではやられてしまう!)
世界最高峰の硬度を持つゴーレムに搭乗するオッサムでさえ敗北の文字が浮かんだ。そう思った時には逃げることを考えた。次で勝てばいい、そう思いながら呼吸を整える。
(あんな強力なスキルを使ったんだ。この距離をすぐに詰めるのは不可能だ!)
その証拠にリックの機動力は常人より少し早い程度である。事実、反動で身体能力が低下し、スキルはクールタイムに入っている。オッサムは不敵な笑みを浮かべながら、ゴーレムの両足に搭載したロケットブースターを起動しようとした。
「アマンダ隊長! 受け取ってください!」
すると、騎士団のカインの叫び声とともに漆黒の剣がどこからともなく飛んできた。それに呼応するようにして瓦礫の中からアマンダが飛び出し、漆黒の剣を手に取った。
「助かったよ、カイン。これで私も反撃できる――〈ツインストライク〉ッ!」
アマンダは建物の壁を蹴って、〈ツインストライク〉という相手の懐へ踏み込んで二連撃の斬撃を繰り出す魔剣士スキルを発動した。刹那、一筋の軌跡が走り抜け、一瞬にしてゴーレムの足を切断した。片足が地面に倒れ、ゴーレムは膝をついた。
「なっ!」
「おや、両足を切断したつもりだったのだがな。体がなまったか? でもまあいいか。拳一発分は返した。あとはリックにあげるとしよう。派手にぶちかませ」
ゴーレムを通り抜けたアマンダはリックと入れ替わるようにして離脱した。それと同時に反動が消え、スキルのクールタイムが終了したリックは走る速度を徐々に上げていく。
「これで終わりにしよう。オッサム!」
リックは大盾を構えて速度を上げる。そして、
「――〈冥峰竜の始動・加速〉ッ!」
ゴーレムを見据え、石畳の道を踏み砕き、蹴る。
「やめろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!」
リックの姿が消えた瞬間、ゴーレムの胴体に風穴があいた。
つんざく衝突音とともに爆散する金属片。それとともにゴーレムの風穴から姿を現したリックは着地して、地面を削りながら滑り、飛んできたオッサムを捕まえて停止した。
ボロボロのオッサム。〈ミステリアルバースト〉を発動しながら装甲を破壊して、中で金属に潰されかけた彼を〈バリア〉でぎりぎり守った結果である。
オッサムは自力では立てないと思い、リックは地面に転がした。
「ひ、一つだけ聞かせろ。ど、どうやって、私たちの計画を知ったんだ……」
「たまたま通りかかっただけだ」
なにを思ってオッサムがそんなことを訊いたのか、リックにはわからなかったが、まったく接点のなかった組織の職員と偶然遭遇しただけなので、ありのままを答えた。
「そんな、わけが……」
「ああそうだ。まだ気絶するなよ。お前には清算してもらわないといけないことがある」
リックはそう言ってオッサムの胸倉を掴んで吊るし上げる。
「な、なにをっ」
「お前の手先はカンナを傷つけた。その落とし前を命令したお前につけてもらう」
「や、やめっ!」
オッサムの制止など虚しく、リックの全力の鉄拳が振り抜かれる。
ガンッ、と痛快な金属音が彼の顔面から鳴り響いた。




