37. 合金の御法度
リックが吹き飛ばされた後、アマンダと隊員はオッサムと交戦を続けていた。
物理攻撃や魔法攻撃。あらゆる攻撃手段を使ってもゴーレムの装甲を破壊することはできず、戦力と体力だけが消耗する一方だった。
そして、アマンダの予備の剣がつき、重い一撃をもらって建物にめり込んでしまった。
ゴーレムを倒せる唯一の戦力がダウンしたことで、騎士団の全滅は近づいていく。
「騎士団も、もはやここまでのようだな」
オッサムは高笑いを上げながら、膝をつく剣士に目を向けたときだ。
魔導巧機重鎧を装備したリックが空から飛来し、ゴーレムにダイナミックアタックをかまし、金属音とともにゴーレムを仰向けに倒した。
「リック・ガルートン! 諦めの悪いこと!」
「受け取り拒否されたのでな。戻ってきたぞ」
「うちはキャンセル不可だ! ボケェ!」
オッサムが大振りの拳を振るい、それに受けて立つリックはスキル〈ジャストガード〉を発動して大盾で受け止める。衝撃波が起こり、空気が震える。
「ほう。先程よりやるではないか」
「ほとんど同じ素材だからな」
「ふん。それがどうした。貴様の防具に使用している魔核石は私が使う物より下位互換だということは知っている。それにさっきの戦いの消耗が消えたわけではなかろう。やられるのは時間の問題だろ」
「それはお前も同じだろう。どれだけ質の良い魔核石を使おうと、燃料の魔力が尽きればゴーレムは動かなくなる」
「なら、それまでに貴様を倒すだけのことだ!」
オッサムはゴーレムを操作して鋼の正拳突きを何度も繰り出した。リックはそれを大盾で〈ジャストガード〉を駆使して阻止した。
体力の限界がないゴーレムは続けて正拳突き、薙ぎ払い、鉄槌打ちと、どれも格闘家が使うような正確な技とは程遠いが、その絶え間ない攻撃をリックは的確な判断で対応する。
「やはり使っていないようだな」
「なにがだ?」
「私は知っているぞ。貴様の〈蓄積装甲〉というスキルは〈ガード〉や〈ジャストガード〉を使用すると闘気を蓄えられないことをな!」
「随分と有名になったものだ」
「その余裕はいつまで続くかな? 闘気が貯まらないということは最大火力は出せない状態でどうやって私を倒す気だ?」
「なら、べつの手段で倒せばいい」
攻撃を受け止めるリックは平然と言ってのける。弱点を知られたからといって、だからなんだ、というのがリックの感想だ。使えないのならべつの手段を使うまでのこと。
「そうか。なら、これならどうだ!」
オッサムはそう言って分厚い石畳を抉って放り投げる。宙を舞って拡散する瓦礫の大山を見たリックは標的は自分だけではないことを悟った。
後方にいる負傷した騎士団を人質に取った攻撃。リックは有無を言わさず、
「――〈バリア〉ッ!」
超広範囲に防御魔法を展開して、向かってくる瓦礫をすべて受け止めた。
「そらそら! まだまだいくぞっ!」
オッサムはそう言って建物の瓦礫を天高く放り投げる。
雨のように降り注ぐ瓦礫にリックは防御魔法をドーム状に展開して全員を守る。
「ハッハッハッ! 重戦士だもんなァ! 仲間を見捨てられないよなァ!」
投擲され、降り注ぐ、瓦礫の山。防御魔法の効果範囲内に入るたびに無数の障壁が展開されるたびにリックの魔力がごっそりと持っていかれる。魔力消費を減らすため、自分を守る障壁は展開せず、大盾のみで防ぐ。
リックの防具は歪むことはない。だが、瓦礫の破片が飛び散るたびに装甲の塗装が剥がれ、ミスリルの銀色が剝き出しになっていった。
「さて、そろそろか!」
オッサムは建物から抜き取った鉄骨をリックに投擲した。
太い鉄骨。ひとたび下敷きになってしまったら潰されるのが確定な金属の棒を、リックは〈ジャストガード〉真正面から受け止めた。
オッサムの攻撃はやんだ。だが、それは確認するためのものだ。土埃の中で大盾を構えていたリックの防具から白色が消えていく。
魔力で色をつける特殊塗料。それが消えたことはリックの魔力残量が限界を迎えた合図だ。同時にそれは魔導具の装備も使用不可になったことを意味する。
「チェックメイトのようだな」
勝ち誇ったかのような口ぶりのオッサム。そんな彼に向けて魔導巧機重鎧から色が消えた状態でもリックは走り出した。だが、その動きは鈍く、オッサムに捕まれてしまった。
「ハッハッハッ! ミスリル製とはいえ、ここまで薄汚れるとS級の威厳もないな」
「……、」
リックは無言のままゴーレムの装甲をノックするように二回ほど叩いた。カン、カン、と硬い金属の音が鳴った。そして、ゴーレムの装甲にリックは手を当てる。
「……、予想どおり、ミスリルとアダマンタイトの合金か。そりゃ硬いわけだ」
「今更だな。世界で最高硬度を持つミスリルとアダマンタイトの合金だ。貴様もミスリル製のようだが、アダマンタイトを使った合金はさすがに手の打ちようがないだろう」
「……、ミスリルは世界で二番目に高い金属で魔力伝導率が非常に高い特性を持つ。アダマンタイトは世界最高硬度を持ち、魔力を通しにくい特性を持つ。どれも指折りの最高金属だ。誰もが喉から手が出るほどに」
リックは淡々と言葉を続ける。
「だが、それと同時に使い勝手の悪い金属だ。ミスリルは魔力伝導率が良すぎて複数の術式を束ねると干渉し合って誤作動を起こしやすく、専門的な技術が必要とする。そして、外部からの干渉に弱く、対人や戦闘では魔法が使える者が天敵になる。こんな逸話がある。純粋な魔力を固めた槍が装甲を破壊せずに、内部の人間だけを貫いたという話が」
リックはミスリルのデメリットを述べて、
「アダマンタイトはミスリルを凌ぐ硬度を誇る金属だが、魔力を一切通さない性質のせいでスキルや魔法の力を発揮できない。その代わり、ミスリルが通さない熱と電気の伝導率が非常に高い。アダマンタイトで作った鎧でこんがり焼かれた話があるくらいに」
アダマンタイトの性質を淡々と述べる。
「ミガル王国はあらゆる分野で長けていた国だった。それは金属加工でもだ。だが、それは時代とともに廃れ、継承する者はいなくなった。なんせドワーフの技術だからな」
「……なにが言いたい」
オッサムは苛立った声音で問いかけた。
「この世には絶対に混ぜてはいけない金属がある。それはミスリルとアダマンタイト。確かにこの二つを混ぜれば最強だ。だが、この二つが持っているデメリットが、それぞれの良さを打ち消し合い、中途半端な金属へと成り下がる」
リックは淡々とミスリルとアダマンタイトの御法度を述べた。
「だからなんだというのだ! 性能が中途半端だからといってミスリル以上の硬度はあるのだぞ! 貴様らにはどうしようもないほどの硬度をな!」
オッサムの怒号に反応するかのようにゴーレムのリックを握る力が強くなる。
「――このクッソ硬い二つの金属加工は非常に大変だ。アンタらの技術じゃうまく混ざらないだろう。だから見つけたぞ。魔力の通るミスリルの道を!」
リックは殴られた時から合金の違和感を感じ取っていた。この金属の杜撰を製造を。だからミスリルの対人戦の弱点、至近距離からの魔法攻撃を狙っていた。
魔導巧機重鎧の色が落ちたのは、わざとリックが色のコードを解除したからだ。
まだ戦闘は継続可能だ。
「――〈ミステリアルバースト〉ッッ!」
魔力を直接送って爆発させる魔法をリックは発動した。リックの最大出力で流された魔力は腕を伝い、魔核石を守る装甲まで到達し、装甲は爆発して砕け散った。
そして、目的の冥峰竜の魔核石が露出した。
「――なっ!」
オッサムはなにが起きたか、理解できていないようだった。
「――ッ!」
リックはつかさず跳躍した。まっすぐ、魔核石に手を伸ばし、触れた。
――だが。
「危ない危ない。危うく取られるところだった」
ゴーレムのもう片方の手でリックは再び捕まってしまった。
「残念だったな。リック・ガルートン。これでおしまい、だッ!」
けたたましい駆動音を鳴らして、オッサムはリックを地面へと叩きつけた。それは硬い石畳が敷かれた地面を抉るほどだった。何度もリックの体が跳ね、火花を散らした。
そして、解放状態だった輸送用エレベーターの中へとリックは落ちていく。
まっすぐ、地下へ落下していった。
「ふふふ、さすがのあの高さから落ちれば無事では済まないだろう」
オッサムが勝利を確信した時だった。
もう一つの閉じたエレベーターの後ろに輸送車が止まった。
オッサムは一瞥したが、リックの支援に来たのだろう、とすぐに視界から外した。とうの本人は地下深くへと落ちていった。今更どうこうしようとは思わなかった。




