34. 動き出す商会
サブルトラック商会玄関前。
大通りを封鎖し、堂々と構える騎士団一番隊に、六番隊、七番隊の姿があった。
これからサブルトラック商会へ強制捜査が行われる。この開拓祭の日にだ。
だが、これには明確な理由がある。それは冒険者リック、カンナが所有している素材である。冥峰竜の素材は、今まで市場に出た記録が噂程度しかなかった存在だ。
そんな希少な素材が盗まれた。そして、探査魔法でそれはサブルトラック商会の支店にあるとわかっている。強制捜査は日を改めてもいいが、盗まれたのは冥峰竜の魔核石を圧縮加工した物。強力なエネルギーの塊を兵器にでも使われたらたまったものではない。祭りに乗じてブルース地方から持ち出される前に奪還しなくてはならない。
国一つの兵力を単身で蹂躙できるほどの実力を持つS級冒険者が持つにふさわしい代物は、相応の実力者の手元にあったほうがなにかと都合がいい。暗君に渡るよりは。
サブルトラック商会支店からの応答はない。雇っているという冒険者の姿もいない。おとなしく当行するつもりは毛頭ないようだ。
「六番隊と七番隊は分担して都市の出入り口へ向かってください。おそらく、祭りに紛れて逃げるでしょう。都市の出入り口で魔法による検問を行ってください」
「了解しました。あとは一番隊に任せます」
六番隊と七番隊は早々に都市の出入り口へと向かっていった。今いるのは騎士団最高戦力である一番隊のみ。そのほとんどがA級以上の戦闘員で構成されている。
特質するべきは一番隊一班だが、今回は魔剣士アマンダ、魔術師カインだけだ。
「扉をぶち破れ」
アマンダの指揮により、支店の門が破壊された。ザルツブルグで五本の指に入るほどの面積を誇るサブルトラック商会の支店。だだっ広い庭をまっすぐ突き進もうとも誰一人と姿がなかった。先回りさせて正解だったな、とアマンダは思いながら屋敷に突入した。
「中に誰一人といません」
「そうか……ほかに、隠し通路がないか探してみてほしい」
アマンダは部下に命令し、オッサムの部屋を探索する。
本拠地は物家の殻となっており、夜逃げ同然のように物資も商会の資金すら消えている。ギルドにマークされていた商会が、誰にも気取られずに逃走したのは褒めてやりたいが、さすがは他国でも常習的に違法な売買をしてきた商会というところか。
アマンダは残されていた資料を漁った。だが、重要な書類は粗方もち去ったようだ。
「隊長。地下に続く扉を発見しました」
「わかった」
アマンダは部屋の捜索を中断し、部下に案内のもと扉の前に立った。
地下に続く扉があったのは建物の一階、玄関から入ってまっすぐ進んだ場所にあった。小物を動かすことで扉が開く仕組みのようだ。
「まさかこんな場所があったなんてね」
「ギルドに保管されていた見取り図にはこんな場所はありませんでした。おそらく、ギルドに申請せずに増築していたのだと思われます」
「余罪が増えていくな。この商会は」
アマンダはそう言いながら暗い空間を凝視する。
「商会の建物にしては魔力濃度が高いようですね。なにか作っていたのでしょうか」
「可能性はあるだろうな」
アマンダは生唾を飲み込みながら、魔術師カインにそう返答した。平然と観察しているカインの隣でアマンダは背筋に冷汗を滲ませ、震える体を抑えつけ、恐怖と戦っていた。
「隊長。無理しなくて大丈夫ですよ。地下は俺たちが調査します」
「すまんな。こういうとき役に立たなくて。これでは隊長失格だ」
「そんなこと言わないでください。あなたがいてくれるどれだけ住民に安心を与えてきたか。迷宮恐怖症で、騎士団の中であなたを責める人はいません」
迷宮恐怖症。迷宮で悲惨な目にあって帰還した者が、二度と迷宮に入れなくなる病だ。迷宮でなくても、薄暗く、魔力濃度の高い空間でも症状が現れる。精神操作の魔法での治療も無意味に等しく、発症したら最後、廃業を考えるほどである。
アマンダもその一人であり、この病のせいで冒険者を廃業したほどだ。
本来なら足手まといでしかないのだが、まっすぐな眼差しで嘘偽りない言葉を投げるカインに、アマンダは思わずふっと微笑んだ。
「気持ちの良いことを言ってくれるではないか。わかった。地下の探索はカインに一任する。危険を察知したらすぐさま建物の外へ出ろ。いいな?」
「わかりました!」
アマンダは部下たちに任せて外へと退散した。
「……、」
凛々しい背中を見送ったカインは部下を引き連れて地下へ続く階段を下りていく。暗い空間を照明魔法で照らしながら短い階段を降り、終着点らしい広い空間に到着した。
その間、人の気配はなく、撃退用の罠があるわけでもなかった。
「オッサムどころか、人っ子一人いませんね」
部下がそう言いながら照明魔法で闇を照らす。
「ん? 奥になにかあるぞ?」
部下がそう言った瞬間、前方の闇に二つの光が点灯した。そして、機動音とともに闇の中で金属の軋む音と駆動音が暗い世界に鳴り響いた。
「――ッ! 全員退避! 全力で建物の外へ出ろ!」
冷たい双眸。聞き覚えのある機械音。目の位置からして想定されるサイズ。本能が警鐘を鳴らすほどの悪寒に瞬時に判断したカインは叫び、部下とともに建物から脱出した。
隊員たちが脱出したと同時に建物が、ドカーンッ、と爆散した。
「な、なんだあれは!?」
外で待機していたアマンダは建物を破壊して現れた存在に驚愕した。
全長七メートル。何回にも分けて溶接したであろうツギハギだらけの装甲。サレット兜の形状に似せたシンプルな頭部。背中から伸びる野太いケーブル。そして、胴体の右端にはサブルトラック商会の紋章が施されている。
それは、記録的にもありえない巨体の有人搭乗機ゴーレムだった。
おそらく、登場しているのはオッサム自身。巨大なゴーレムが動くのはリックたちから盗んだ冥峰竜の魔核石のおかげだろう。でないとあんな巨体は動かない。
アマンダは即座に気持ちを切り替え、冷静に分析をしながら剣を抜く。
「カイン。負傷者は?」
「建物ごと吹っ飛んできた隊員もいましたが負傷者はいません。全員、万全の状態です」
「わかった。全員、対大型魔物た――――」
瞬間、ゴーレムから射出された球体にその場にいた全員が反射的に直視する。
直視してしまった。そのわずかな隙が隊員への指揮が遅れた。それが、閃光弾だ、と気づいたときには、爆発とともに発光し、アマンダを含めた全員が目を潰された。
そして、ゴーレムは膝をついた一番隊を一瞥する。
「これはこれは、騎士団長殿ごきげんうるわしゅう。せっかくの訪問大変痛み入りますが、私はザルツブルグを去ります。こんにちまでしっかりと稼がせてもらいましたよ。では」
そう言い残してオッサムが搭乗するゴーレムがその場をを去った。
視界を奪われた一番隊たちは、去っていく駆動音をただ聞いてることしかできなかった。
「全員聞け! 動けるようになった者から五名は警報と、ブルース地方全域に駐屯する騎士団に至急通達っ! 残りは回り込んでオッサムの逃亡を阻止せよ!」




