33. ザルツブルグ開拓祭
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ザルツブルグ開拓祭。
祭りの歴史は、数百年前まで遡る。ミガル王国の命令によって始まった未開拓地の開拓が、冒険者の都ザルツブルグの始まりである。まあ、色々とあったが、現ギルド長と都市管理者を筆頭にブルース地方を開拓し、ザルツブルグという都市ができた。
それを記念しての祭りが開催される。
とある広場にて、リックはカンナと待ち合わせをしている。一緒に祭りを見て回る予定である。服装は普段着の豆腐メンタルと書かれただぼだぼの服だ。
美麗な顔つきのリックが立っているだけで、通りかかる女性たちの黄色い声が聞こえてくる。たまに女性と間違えて振り向く男性の姿もちらほらといる。それでも近寄ってこないのは、隣にたまたま居合わせたアメリアが不機嫌な顔で立っているからである。
「しょうじき、その恰好はないと思うですが」
「そう思うか、アメリア。俺も待ち合わせをしている段階でそう思った」
「遅すぎますよ! 女性と祭りを見て歩くってことは、つまりデートですよ! デート! そのことをわかっていますか!」
「長い付き合いだからあまり考えていなかった」
アメリアは溜息をついて口を開く。
「まあいいですよ。リックも含めてカンナさんも服装に関しては壊滅的に終わってますからね。タンクトップって、だぼだぼのダサTって。本当に良いコンビですね」
「わかるか?」
「褒めてないです。もうちょっとおたがいに服装を気にしたらどうですか?」
「気にしてないわけではないぞ。たまに軽くツッコムことはある」
「おたがい強く言わないだけでしょ。口で言うわりに気にしてそうな感じもないし」
手厳しい言葉をもらうリックは、なにも言い返せなかった。
「それじゃ、まだまだ仕事があるから私はこれで。カンナさんと祭り、楽しんでね」
アメリアはそう言い残して、仕事に向かっていった。
「……、」
一人、残されたリックは大きな噴水の前で、昨日のことを思い出す。
カンナが襲われ、冥峰竜の魔核石が奪われ、カンナを慰めた後の話。ザルツブルグ騎士団一番隊隊長が今回の捜査にあたっている。
まあ、結果だけ話すと、今回の強盗の犯人はサブルトラック商会だ。物的証拠はないのだが、セキネツ武具店には冥峰竜の素材が保管されているため、それを媒介して探査魔法を行使したことで、冥峰竜の魔核石がサブルトラック商会ザルツブルグ支店にあることが分かった。この都市にある冥峰竜の素材はリックたちが所有する素材のみ。ほかに持ち込まれたという話もなく、魔核石ということもあったことで調査は一瞬にして終わった。
今日、この祭りの日に騎士団一番隊を筆頭に強制捜査が行われる。
大通りと隣接しているサブルトラック商会の支店。おそらく、混雑を考慮すると人避けもするだろうから、堂々と乗り込むだろう。
「何事もなく終わればいいけどな」
あのサブルトラック商会のことだ。確実に抵抗はしてくる。向こう側がどれくらいの規模で人数がいるかは不明だが、A級並みの戦力を持つ騎士団と、元S級冒険者のアマンダの前では足元にも及ばないだろう。相手に奥の手がなければの話だが。都市を守る最強の盾とはいえ、アマンダの弱点を突かれた時が不安である。
「お待たせ。待たせちゃった?」
「いや、来たばかりだ」
嫌な予感がよぎるなか、時間通りにカンナがやってきた。
見慣れた格好のカンナ。しかし、新しく新調したらしいタンクトップを今日は来ている。
「タンクトップ新調したんだな」
「そうなんだ。かなり丈夫な素材にしたから前みたいには破れないよ。どう?」
「おへそがとてもチャーミングだ」
「……っ、どこ見てんのよ。もう。そんなこと平然と言ってのけるからムカつく」
ほんのりと顔を赤く染めるカンナはそっとおへそを隠す。じっと真顔のまま視線を反らさないリックをした後、敵わないと悟って溜息をついた。
「ホントはリックにもらったヘアピンをつけてきたかったんだけど、強盗に襲われたときに壊れちゃったみたいで、使えなくなっちゃったんだよね」
残念そうに笑うカンナ。その物悲しい表情から大事にしていたことが伺えた。
「ごめんね。せっかくリックが贈ってくれた物なのに」
「仕方ないさ。なら、歩きがてら新しいのを買いにいこう」
「えっ。いやいや、さすがに悪いって」
「もらってくれ。散々カンナの我儘聞いたんだから今度は俺の我儘も聞いてくれ」
「……それ、ずるいと思うよ」
「だな。これは俺の自己満足かもしれないが、また受け取ってはくれないか?」
リックは微笑んでそう言った。せっかくの贈り物が壊れてしまったのは仕方ない。なにせ相手は強盗、サブルトラック商会の使者だ。こちらの事情を汲んでくれるわけがない。それに、カンナの喜ぶ顔がまた見れるのなら、リックは喜んでプレゼントを贈る。
カンナは少し悩んだすえに、諦めたように息をついた。
「それじゃ、お言葉に甘えます。たぶん、断ってもしれっと買ってくるだろうし」
「わかってるじゃないか」
「ふぇぇ、口に出さなければよかった」
「出さなくても時間の問題だがな」
「リックってたまに強引だよね」
「まあまあまあ」
「ああ! そうやって流そうとする。重戦士なら受け止めろ!」
「重戦士でも受け流しはするぞ。ほら、そろそろ祭りにいこう」
「………………。それもそうだね。いこっか」
少し不服そうなカンナだが、諦めた様子でそう言った。
なにはともあれ、リックとカンナの二人は祭りを楽しむことにした。と言っても混雑する大通りにはいかず、人が多くても普通に通れる道をぶらぶらと歩く。
競争率が高い場所はいかない。露店で売られている外国の髪飾りや調味料、小道具、迷宮から採掘された魔導具、綺麗な石、等々……足を止めては品を見てはまた歩く。
すると、近くの露店から鼻を擽る香ばしい匂いが漂ってきた。
「小腹がすいてきたね」
「そうだな。あれを食べるか」
リックは目に入った露店の、串焼きを購入し、カンナに一つ手渡して食べ始める。
「んっ、おいしい! 香草と塩で味付けした鶏肉だね」
「そうだな。もう一本買っていくか」
「私はいいかな。ほかの露店のも食べてみたいし」
「いっそのことあらかた買ってどっかで食べるでもいいな」
「それいいね。そうしようか」
料理を提供する露店を転々としながら祭りの雰囲気を楽しむ。
リックは楽しそうにしているカンナの様子を見て微笑する。昨日まで酷く落ち込んでいたため、引きずっていないか、心配をしていた。だが、今は嘘のように元気を取り戻していたのでリックは安心した。
ふと、展望数が二桁いったところで、リックはある露店に足を止める。
「どうしたの? リック」
カンナが不思議そうに訊ねるが、リックはじっと露店の商品を見つめる。
「店主。このネックレスをくれ」
「あいよ。これ魔導具だから、けっこう値が張るけどいいかい?」
「構わない」
リックは即決して代金を払って、ネックレスを受け取った。
「カンナ。ちょっと動かないでくれ」
「うん? いいけど」
リックは購入した澄んだ濃い緑色の宝石を使ったネックレスをカンナの首につけた。彼女の翡翠色の瞳に似て、首元で美しく輝く姿にリックは「よしっ」と満足げに手を離す。
「へっ……」
「さっき言ってた俺からの贈り物だ」
「……、」
「魔導具らしくてな。幸運を強く引き寄せる効果があるみたいだ。受け取ってくれるな」
「………………、」
カンナはつけられたネックレスを手に取って呆然と見つめる。
「もしかして、その色はあまり好きではなかったか?」
「へっ!? いや、そうじゃなくて! 突然でびっくりしちゃったの! み、緑色は大好きだよ! ほら、私の瞳の色とおんなじだから!」
カンナは慌てふためきながら必死に弁解する。
「それならよかった。カンナの翡翠色の瞳は綺麗だから、似合うと思ったんだ」
「きれっ、にあっ……、――、――っ!」
カンナは目を見開くように驚くと、リックを羞恥に満ちた表情で睨みつけた。
「リックって、そういうところあるよね?」
「なにがだ?」
「知らないっ。でも、ネックレスありがとっ」
不貞腐れて歩き出すカンナに、リックはよくわからなくて小首を傾げた。
「なんで怒ってるんだ?」
「お客さん。それは火力高すぎますって」
「……。なにがだ?」
「あっしからはなにも。でも、とても喜んでくれたみたいで良かったですね」
露店の店主は、いいもん見た、と言いたげな温かい面持ちで言う。
なんのことかよくわからず、心に引っかかる気持ち悪い感触を感じながらも、今はカンナが喜んでいるならそれでいいか、とリックは思ってカンナを追いかけた。
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