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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
序章 追放重戦士編

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31. 『おたがいの思い』

アクセスありがとうございます。

 ザルツブルグの端。そこは建物が一切なく、街に入るには少し歩かなければいけない。小川にかかった古い石橋を渡った先に古い一軒家が存在している。


 見た目は館。二階建ての家であり、リックの住居である。数年前に激安で売られていたことを知り、今後のことを踏まえると割安になると確信して思い切って購入したのだ。

 カンナをセキネツ武具店に送り届けようとしたが、途中で誰かに追われている気配を感じたリックは、杞憂である可能性がありつつも大事をとって自宅に招待した。


「話には聞いていたけど、けっこう立派な家だね」

「おんぼろだが、内装は綺麗だから安心してくれ」


 リックは扉を開けて、カンナを家に招き入れた。


「玄関前は抜けてるから重ねてる板の上を歩いてくれ」

「なんで突き抜けてるの?」

「あの鎧を装着したまま家に入ったら突き抜けてしまった。地下倉庫まで一直線だ」

「あちゃ~。あれ、リックは感じてないけど、重鎧の倍は重いからなぁ」

「落っこちてから理解したよ」

「賞金首と交戦した時も壁に突っ込んでたもんねぇ」

「あれはマジでびっくりした」


 隙間を覗くカンナに、リックは当時のことを思い出しながらそう答えた。


「ちょっと待っててくれ。風呂を沸かしてくる」

「なにか手伝う?」

「さすがに客人にそんなことをさせられないだろ。ソファで寛いでてくれ」


 リックはカンナを荷物と一緒にソファに座らせ、風呂を沸かすと同時に食事の準備した。献立は肉料理と野菜料理、汁物、そして主食のパンだ。


「リックって料理できたんだね」

「一人暮らしだからな。あんまり凝った料理はできないがな」

「いや、じゅうぶん凝ってるよ」

「おかわりもあるからな」

「おかわり! 肉多めで!」

「はいよ。ちょっと待ってろ」


 カンナから皿を受け取り、台所に向かおうとした時、ジリリリリッ、と通話機器が鳴った。リックは「ちょっと待っててくれ」と言って受話器を取る。


「はい。もしもし……アマンダさんですか。先程はありがとうございます。はい。はい。わかりました。引き続きよろしくお願いします」


 アマンダからの通話に、リックは軽く話した後、受話器を元に戻した。


「なんだって?」

「パーティメンバー全員逮捕された。一週間は反省部屋で生活らしい」

「そっか。全員捕まったんだね」

「それと別件だが、俺たちを監視していた者がいたらしい」

「マジ? リックが感じてた気配は気のせいじゃなかったんだね」

「杞憂であってほしかった」


 リックはそう言って溜息をする。わずかな間、その顔はわずかな陰りを覗かせ、それを見ていたカンナは心配そうに口を開く。


「……、あんな姿、見たくなかった?」

「ん? ああ、まあな。誰だってかつての仲間が捕まるところなんて見たくないさ」

「後悔してたり、する?」

「まさか。もう決めたことだ。おかわり、すぐ持ってくる」


 リックは微笑して台所に入っていく。カンナが気にしているほど重く受け止めてはいない。彼女のおかげで吹っ切れたリックには思い入れはあれど引きずるようなことはもうしない。おたがいにべつの道を歩み出した、と答えを出している。


 確かに、あのパーティに未練がないというと噓になるが、もう済んだ話だ。

 懸念点があるとすれば、今後も対立することになるだろうな、ってことだ。

 問題を抱えながらも、楽しく食事を終えたリックたちは一人ずつ風呂に入った。


 寝室は二階だが、一部屋以外は一から掃除しないといけないため、今日はリックの寝室で一緒に寝てもらうことになる。もちろん、カンナはベッドでリックはソファだ。


「ああ、サッパリしたぁ……」


 なんか甘い匂いしたけど、とリックは思いながら、長めの髪をタオルでふいた。


「けっこう良いベッドに寝てるんだね。超ふかふかぁ」


 リックの寝室。すでに風呂からあがっていたカンナはベッドに寝転がりながらそう言った。そんな彼女を見ながらリックは、涼しい風が入り込んでくる窓辺に寄りかかる。


「今日も良い夜風が入ってくる」


 湯上がりで火照った体には嬉しい風だった。リックは月が照らす夜の世界を眺めながら冷水を飲み、余分な熱が引くのを待った。

 リックはふいに、カンナのほうを見やるとこちらをガン見していた。


「俺を見てどうした?」

「リックを見てるとお兄ちゃんとの会話を思い出してさ。さっさと付き合え、って」

「もしかしてナットか? 俺だけに言ってるんじゃなかったのかよ」


 ナットと二人きりになると必ず「うちのカンナはどうだ?」とか、「仲いいんだからさ」となにかと理由をつけてくっつけようとしてくるのだ。どちらかを焚きつけるのではなく、両方を焚きつけさせる気だった、とカンナの言葉でわかった。


「どんだけ俺たちを付き合わせたいんだか」

「ね。その気にさせたいんだろうけど、結局は私たち次第だっていうのに」


 カンナは呆れながら溜息をついて、リックを眺めた。


「ねえ、リック。試しに見つめ合ってみない?」

「なぜだ?」

「お兄ちゃんの気持ちは置いといて。じっさい私たちはどうなのかなって思って」

「どうなんだろうな。仲はいいほうだとは思うが、意識はしたことないな」

「ほとんど関わるのは仕事ばっかりだったしね。話題も冒険か武具制作くらいだし」

「わかった。物は試しだ。やってみよう」


 断る理由もなかったリックはその話に付き合うことにした。


「決まりだね。ささ、リックもベッドに乗って」

「カンナよ。男をベッドに誘うのはちょっといかがなものかと」

「茶化さない」


 むっとしたカンナと対面するようにリックはベッドに座った。

 とくに開始の合図とかはなしでリックとカンナはおたがいに見つめ合った。

 神妙な面持ちでこちらを見るカンナに、リックも同じように見つめる。


 美人だとリックは思う。スタイルもよく、出るところは出ている。肌もきめ細かく、艶がある。強く、賢く、快活な女性。引きつける魅力をカンナは持っている。


 だが、それ以上の感情はリックの中にはない。親しい友人の顔をなんの理由もなく、眺めている感じである。それはカンナも同じようで難しい顔を浮かべていた。


 もっとなにかないか、と必死に考えて気づけば二人してにらみ合っているような構図になっていた。それに一早く気づいたカンナは、ぶふっ、と吹いて笑った。


「おっかしい。リックすんごい顔で見てやんの」

「お前も人のこと言えなかったぞ」


 腹を抱えて笑うをカンナに、リックは溜息をつきながら言葉を続ける。


「それで、満足のいく答えは出たか?」

「たぶんね。でも、リックと同じだと思う」

「そうか」

「ごめんね。急に無茶なお願いをして」

「べつにいいさ。俺たちの仲じゃないか」


 リックはそう言って包装された小箱をカンナに渡した。


「なにこれ?」

「プレゼントだ。いつも世話になってるそのお礼」

「プレゼント! ホントに! ありがとう、リック。開けてみてもいい?」

「ああ。お気に召せばいいんだが」


 嬉しそうに箱を開けたカンナは、中身を手に取った。


「ヘアピン……、とヘアゴム?」

「カンナには実用的な物がいいかと思ってな。いつも物作りをしてるとき、よく髪をかき上げてるからさ。どうかな?」


 リックはカンナの反応を伺いながら訊く。カンナはじっとプレゼントを見つめて、ヘアピンをつけ、髪をまとめてポニーテールにした。


「どう? リック。似合うかな?」


 髪につけたヘアピンとヘアゴムを見せながら感想を訊いてくるカンナ。反応を見るからに彼女はお気に召したらしく、何度も角度を変えてリックに見せてくれた。


「似合ってるよ。とても綺麗だ」


 安堵の笑みを浮かべながらリックは素直な感想を述べた。

 一瞬、驚いた顔を浮かべたカンナは、


「なんか、照れくさいなぁ。綺麗は余計だよ」


 頬を人差し指で掻きながらに言う。


「本当のことを言ったまでなんだがな」


 リックはそう言いながらベッドから降りて、


「そろそろ寝るか。早朝くらいに家に送るよ」


 今日の寝床にソファに向かうとすると、カンナに服を摘ままれた。


「ソファは悪いから、ベッド一緒に使おうよ。こっちのほうが寝心地良いよ」

「いや、狭いだろ」

「詰めればいいじゃん。それに女の子と添い寝できるなんてなかなかないと思うけど」

「だがな」

「ほーら。こっちに来て」


 抵抗しようとすればできた。だが、カンナに促されるようにリックはベッドに寝そべった。カレカノ関係でもない男女が同衾するのはどうなのか、と思ったが、カンナだからいいか、と最終的に受け入れていた。


 カンナも、リックの腕を枕代わりにして横になった。ふいに、ふわっと香ったカンナの、女性の香りがリックの鼻腔を擽った。


「おやすみ、リック」

「あ、ああ……おやすみ」


 リックは目を瞑ったカンナを一瞥し、深く、ゆっくりと呼吸した。

 初めて意識した甘美な香り。その香りは、リックの心臓を強く鼓動させた。


(なんだろうな。この気持ちは――――)


 考える前に、リックは眠りに落ちた。

 部屋には二人の寝息。普段は一人分しかない呼吸音。今は部屋の静けさの中に、もう一人の寝息が存在している。そして、開けたままの窓辺から心地よい風が吹きつけていた。


読んでくださりありがとうございます。

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