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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
序章 追放重戦士編

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28. リックの暇潰し

アクセスありがとうございます。

 リックがS級冒険者となってから二週間が経った。

 最近ではパーティ追放以降、通う日数が増えたセキネツ武具店へと訪れたリックは、カンナの作業風景をただ眺めていた。


 冥峰竜の素材を半分ほど売却した後、セキネツ武具店の設備を冥峰竜の素材を加工できるようにグレードアップし、カンナが欲しがっていた核石圧縮加工機を購入した。


 あれからリックたちは冒険には出ておらず、武装製作の手伝いや見学をしていた。だが、やることがなくて、リックは暇を持て余していた。


 シュゥゥゥゥ、と蒸気で埋め尽くされる工房。室内だというのにカンナの圧縮加工作業で魔核石の圧縮、冷却、圧縮、冷却を繰り返すたびに蒸気や熱風に襲われる。まだリックは離れているからマシだが、カンナなんか汗と蒸気でびしょびしょである。


「……。圧縮加工って大変なんだな」

「固形物をさらに押し固めるような作業だからな。あれだけやって数ミリ程度だ」


 退屈なリックの言葉に、同じく退屈そうにしている長男のナットが答える。

 少し圧縮するだけでもエネルギーの塊である魔核石は一瞬で赤熱して高温になる。常に水をかけている状態にもかかわらず、少しの圧縮でも蒸気が発生してしまう。その蒸気は工房の外にも影響を及ぼしており、火事だと勘違いされて大事(おおごと)になったほどである。


「そういえば、魔核石の圧縮加工で忘れそうになるが、防具とかはどうなったんだ? 少し手伝ってから、その辺の作業を見ていない気がするんだが」

「ああ、それなら、そこにあるよ」


 圧縮加工作業中のカンナが指差す方向に、魔導巧機重鎧(まどうこうきじゅうがい)があった。台座に仰向けで固定されており、すでに防具として完成していた。デザインが少し変化したくらいだ。


「もう完成していたのか。一ヵ月はかかるものかと」

「前のをベースにしてるから、リックの手伝いもあって予定より早くできあがったんだ」

「けっこうなパーツ量だったような?」


「今回は設計図があるからな。三人がかりでやればこんなもんよ」

「す、すごいな」


 ナットたちの仕事に圧巻させられるリック。前のパーティ時代でもよく通っていたはずのに、単独活動になってからはさらにセキネツ武具店に驚かされている。


「冥峰竜の素材とミスリルの相性が良くてな。比率を変えながら一番良い合金を採用した。まったく、俺特製のミスリルチタン合金が掠んで見えるぜ」


 凄腕の職人たちの集まり。なのに、あまり話題にならないのはなぜなのか、とリックは疑問に思った。当時からも武具制作の腕は確かなはずなのに、セキネツ武具店で冒険者と鉢合わせしたことがない。やはり立地か、とリックは一人で考えた。


「それに、今回の武装製作はほとんどカンナがやったんだぜ?」

「カンナが?」


「そうそう。俺たちはカンナの手伝いをしただけだ。いやぁ、武器製作に防具製作、あまりやってこなかったから心配だったが、アドバイスするとすぐに上達しちゃってさ。まさか、リックの武装を一人で作ってみたい、って言ってきたときは驚いたもんだ」


「……、」


 魔導具製作を専門とするカンナが、武具製作できることは知っている。

 店では一番得意なものを担当し、作業を分担して行っている。だが、カンナはそれをほぼ一人で製作している。どんな心境の変化なのかわからないが、分担していたはずの作業量をこなしているとなると、少し体が心配になる。


「リック。やることないから自由にしてていいよ」

「そう言ってもなぁ。俺だけなにもしないのは気が引ける」


 だが、リックがこれ以上できることはなにもないのは事実。素人が職人の武具製作に口出しできるわけでもなく、隣に立って圧縮加工を手伝えるわけでもない。最近、リックの防具の噂を聞きつけて防具製作の打診をしてきた冒険者や商人を追い払うことはしていたが、ギルドにチクったらぱったりとこなくなった。


 現状、いるだけ邪魔な存在である。それでもリックは一緒に現地へ赴いた仲だし、同じ冒険者だし、一人だけ自由に過ごしているのは気が引けた。

 すると、カンナは溜息をついて、作業を止めてリックを工房から追い出した。


「職人の仕事は職人に任せてゆっくりしな、って!」

「ちょっ、カンナ……」

「完成するまで工房の出入り禁止。入ってきたら怒るからね」

「……、」

「完成までのお楽しみ。ね?」


 カンナはウインクをして工房の中へと消えていった。そう言われてしまったらなにも言えるわけもなく、リックは素直に自由行動することにした。

 そういうわけで、なんとなくでギルドにリックは足を運ばせた。


「……、」


 ギルドについて早々、掲示板を見ながら、冒険でもいくか、と一枚の依頼を取り、受付嬢に渡す。普通ならこれで受注されるのだが、リックの目の前にいる受付嬢は眉を顰めた。


「申し訳ありませんが、S級ですよね?」

「まあまあまあ」


 新入社員であろう受付嬢の言葉を、リックは適当に流しながら残り物の依頼を受注する。雑草取りの依頼なのだが、たぶんアクダミ草の群生だろう。


 まあ案の定というか、リックの予想通り、庭に植えて物凄い勢いで増殖したアクダミ草の除去だった。下手に植えんなよ、と思いながらもリックは依頼をこなし、三時間くらいの作業で終わらせ、その足でギルドに依頼完了の報告を終わらせた。


 一仕事終えたリックはギルドの大広間で一つのテーブルを占領し、少し早めの食事をとりながら呑気にスクリーンに映る映像を眺めていた。


「S級に昇格して最初の仕事が雑草取りってどうなの? リック」


 すると、リックと同じテーブルに腰掛けるアメリアは呆れ顔でそう言った。この時間帯はまだ仕事中のはずなのに、冒険者が来ないからと堂々とさぼっていた。


「どう、って」

「そこはもっと、ドカーっと大きな依頼をこなすとかあるでしょ」

「武装製作をやってるからな。そんな大きな依頼はできない。そもそも、あの閑古鳥が鳴いてる掲示板からどうやってでかい依頼を見つけろ、っていうんだ?」


「平和でなにより。仕事が減って助かってます。近頃は〝白漂領域(ヴァイスフィールド)〟も発生してないから、そのぶん発生するはずの仕事もないからね」

「最後の発生は三ヵ月前だったな。例年と比べて今年はだいぶ落ち着いてるな」

「そうね。まあ、発生しないほうが一番なんだけどね」


 アメリアはそう言いながらウインクをする。


「っていうか、新調したばっかだよね? 早すぎじゃない?」

「竜に一部噛み潰されたからな。カンナに提案されたから、ってのもあるが」


「カンナさんねぇ。色々と不安はあったけど、数年ぶりに復帰したF級の冒険者がまさか短期間でC級になるなんて思わなかったわ。大事にしなさいよ」

「わかっている」


 リックは手を合わせて、「ごちそうさま」と言って立ち上がった。


「これからどこかいくの?」

「色々お世話になってるから、なにか差し入れしようかと思ってな」

「それじゃ、女の子が喜ぶ物も買っていかないとね」

「ふむ、喜びそうなのか。なにか良い物はあるか?」


 前向きなリックの返答に、意外と言わんばかりに驚いたアメリアは、くすっ、と笑う。感心されているなんて露知らず、リックはアメリアからのアドバイスを待つ。


「うーん。そうねぇ……アクセサリーなんかがいいかもねぇ。髪留めとか、首飾りとか……あっ、間違っても指輪なんて買っていくんじゃないよ?」

「買わんよ……とにかく、ありがとう」

「いってらっしゃぁい」


 アメリアに手を振って見送られるリックは街へと繰り出した。

 もうすぐ祭りがあるザルツブルグはいつにもまして賑わっており、露店の準備などが着々と進んでいた。祭りまでもう少し時間はあるが、後のことを考えて早めに訪れているであろう他国からの見慣れない商人や冒険者たちが見られた。


 リックは露店に並んでいる品物を見ながら、買っていく物を考える。もう少しすれば昼時ということもあり、作業中の三兄妹のために肉料理を予定した。


 あとは、カンナへの贈り物だった。露店が並ぶ大通りを練り歩きながら、リックは悩んだすえに一つのアクセサリーを選んで購入した。


「よし。こんなもんかな。あとは米と肉料理を――」

「リック!」


 すると、作業をしていたはずのカンナが慌てた様子でリックのもとへ走ってきた。そして、リックを壁にするようにして身を隠した。


「カンナ?」


 どうしたのか訊ねようとしたところで、その答えが向こうからやってきた。

 それはリックも面識のある四人組のパーティだった。突然追放を言いくだし、S級認定され、最近これといった話を聞かない『バラン・ガタッタ』の一行だった。


読んでくださりありがとうございます。

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