27. それぞれの思惑 ‐バラン・ガタッタ視点‐
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サブルトラック商会ザルツブルグ店。
仲間を連れて帰ってきたオッサムは自分の部屋でテーブルを強く殴っていた。
「くそっ! あの色ボケが!」
オッサムは怒りに満ちていた。ザルツブルグの豊富な資源を利用するために、わざわざ汚らわしい異種族や混血が入り混じる都市に来たというのに計画は破綻寸前だった。
新型の有人搭乗機ゴーレムを開発するにはこのブルース地方の資源が必要だ。だが、それも商会が抱える冒険者が捕まったことで資源集めが困難になった。それと同時に不用意にリック・ガルートンに接触したせいで厳重注意を受けてしまった。
不幸が立て続けに二度も起こった。このままではザルツブルグでの商売が危うくなる。あばよくばザルツブルグの経済を乗っ取るつもりだったが、それも難しくなった。
「くそっ! すべてはあのリックのせいだ! 馬鹿な冒険者だと思っていたのに!」
すべては急ぎすぎた自分の失態にある。だが、リックが関わらなければ、間抜けなギルドもその住民たちは今ものうのうと生活をしていたはずだった。
「だが、あのカンナとやらの技術は欲しい。いや、どちらかというと冥峰竜の魔核石だ。あれだけあればどんな機体でも動かせる動力源になる。あいつらは素材を売る気はなかった。きっと武具制作に回すはずだ。どうにか手に入れられないものか」
強引な手を使えばいつでも強奪可能だ。だが、今の状態ではそれは難しい。時間さえあればどうにかなるが、その時間を作る前に魔核石を手に入れるチャンスを逃してしまう。
オッサムは悩んだ。
なにか手はないか、とリック・ガルートンの情報を読み返した。
「……。そういえば、リックはS級パーティ『バラン・ガタッタ』に所属していたな。追い出されたのはメンバー同士のくだらない嫉妬から、だったか」
これは使えるのではないか、とオッサムは思った。
S級パーティといえど、『バラン・ガタッタ』は対して実力がないという。それは冒険者界隈では周知の事実らしい。むしろリックのほうが評価されているくらいだ。
リーダーのグランを含め、その一派は無駄にプライドが高く、他人を見下して交流も少ない。S級認定されたその日は話題になったが、今は空気のように話題になっていない。
なら、今の現状をよく思っていないはずだ。その心情をうまく利用すれば、リックたちにけしかけることができる。そうすれば時間稼ぎが可能だ。
「これならいける!」
リックたちより先に有人搭乗機ゴーレムを完成させれば、あとは稼働に必要な魔核石を強奪して、ミガル王国へ逃亡すればいい。
「これが成功すれば、きっと私は大貴族になれる! ミガル王国が世界に名を轟かせることになるだろう。そうすれば、私の商会はより大きくできる! なんてすばらしい計画だ」
オッサムは下卑た笑みを浮かべならそう呟くのだった。
――
数時間くらい経った頃、ある貸家の個室で『バラン・ガタッタ』は酒に溺れていた。
「チクショー! 今日も依頼を失敗した! なぜだ。昨日はうまくいったのに、なんで今日は失敗するんだよ! たかが竜討伐の依頼で!」
グランはテーブルに酒瓶を叩きつけてそう叫んだ。
パーティがS級認定されて以降、グランたちは空気になった。話題にすらならない。A級のときは期待と尊敬を向けられていた。なのに今はそれがない。
そういえば、から会話が始まって、少し話して終わる。
ふざけるな、とグランたちは思った。
「どうする、グラン。このままだと俺たち完全に空気だぜ?」
戦士のコルクはジョッキ片手にそう言った。
「わかっている!」
依頼の達成率はまあまあだ。不利にならなければ『バラン・ガタッタ』が負けることはない。だが、その戦闘のほとんどは奇襲である。まっこうからの勝負で勝てた覚えがない。すべてはリックを追放してからだ。タンクがいなくなった途端に達成率が下がった。
「これほどまでに変わるものなのかっ!」
グランは頭を抱えて項垂れた。もう一人、心強い仲間がいるのだが、あれから音信不通だ。リックの代わりが務まるとすれば彼しかいないのに、いまだ姿を晦ましたままである。
パーティの顔となりつつあったリックを追い出しただけでこれだである。すべてを持っていたあいつがいなくなっただけで、自分たちにはなにも残らなかったっていうのか。
考えれば考えるほど、グランの持つリックへの憎悪が増していく。実力は確かにあったはずなのにパーティに空いた穴はすさまじく大きかった。
到底、穴埋めできるようなものではなかった。
「どうする? 誰かタンクを雇う?」
「いっそのこと、リックを呼び戻す?」
その軽はずみな発言に、グランはテーブルに拳を振り下ろした。
ダン、と個室に響く打撃音。全員の酒を飲む手が止まる。
「ダメだ! それでは俺たちがリックがいないと弱いと認めるようなものじゃないか! 俺たちだけでも十分強い! リックがいなくても平気だ!」
グランはそう言ったものの、今の状況を打破できるもう一人がいない以上、解決することはない。肝心な時にいるはずの仲間が今日にかぎっていないのか。
「安心してください。防御の面はわたくしとデミがいますので問題ないかと」
「待ってよ。私の防御魔法はともかく、アンタの防御魔法は展開が遅いのよ!」
「神聖魔法の結界はかなりの集中力が必要なため、乱発ができません。なので、どうしてもデミさんに頼ってしまうことになります」
「だからって……」
申し訳なさそうに言うミアに、デミは強く言えなかった。神聖術の特殊性と利便性、それを踏まえての後方からの献身的な支援を考えると、もっと増やせ、とは言えない。
なにより、聖女という肩書を持つ彼女を酷使させるわけにはいかない。そんなことをしてしまえば、彼女を支援する教会に目をつけられてしまう。
「二人の防御魔法があれば俺たちはタンクなしでやっていける。俺たちは十分に強い。今は目に留まっていないだけだ。きっとすぐに有名になる。なにも問題もない」
目が留まっていないだけだ。大きな依頼をこなせばすぐに有名になる。S級認定されたパーティが注目されないわけがない。
グランは自分に言い聞かせ、ちらつくリックの影を振り払った。
「そういえば最近、すごい技術を持った職人がいるみたいだ。なんでもその職人が作る魔導具を着るだけで強くなれるらしいんだ」
「ほう。で、その職人の名は?」
コルクの言葉にグランは興味を持った。
「カンナ・ウォールマンっていうらしい。セキネツ武具店の三兄妹の長女だ」
セキネツ武具店、と聞いたグランは眉を潜ませた。
「リックがよく通っていた武器屋だ」
いや待て、とグランは諦めようとした自分を制止した。
グランは思った。カンナ・ウォールマンをこちら側に引き込めないか、と。
腐っても職人と冒険者だ。お互い利益があるから成立する関係だ。なら、S級パーティであるグランたちの名声と大金さえあれば簡単に味方にできる。
リックとの関係なんてよく金を落としてくれる冒険者にすぎない。そして、これといった名誉も名声もないただの冒険者だ。そんな奴とずっと取引をすることはない。
「カンナ・ウォールマンをこちら側に引き込もう」
「非戦闘員を引き込むのかよ」
「戦力としては期待していない。欲しいのは技術だ。専属職人になってもらえればその有名な技術で作られた武装を使い放題だ」
「おっ、いいな、それ。俺の戦斧も少しガタが来てたところだ」
カンナ・ウォールマンは女性だ。グランはもしかしたら男女の関係になるだけでも簡単に、とも考えている。なんていったって今一番脂が乗っている冒険者パーティだ。そして、自身の顔の良さも自負している。
「なら、我々の支援を受けてみませんか?」
「誰だ!」
気配もなく個室に入ってきた者に『バラン・ガタッタ』の全員は獲物を向けた。
「ご安心ください。我々は敵対したくてここに来たわけではありません」
「なら、どこの回し者なのか言え」
「申し遅れました。私は、サブルトラック商会会長オッサム様の使いの者です」
フードを目深にかぶった者は不敵に笑いながらそう言った。
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