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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
序章 追放重戦士編

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26. ギルド長とS級昇格

アクセスありがとうございます。

「もしかして、ギルド長?」


 カンナが恐る恐るといった感じで後ろを振り向きながらそう訊ねた。


「あたりぃ。ご存じの通りのギルド長アルトリア・アールハットマンだ。たまたま用事で通りかかったらクセモノが占拠していたから退治してきたところなんだ。まさか、その親玉までいるとは思わなかったけどね」


 アルトリア・アールハットマン。ザルツブルグのギルド長を務めている人間族の男だ。赤みがかった茶髪と緑目。ハイエルフを伴侶とし、三十代前半の優男である。そして、ザルツブルクを作った中の一人だったりする。


 冒険者として英雄となった存在であり、七児の父だ。人間とハイエルフは妊娠する確率は非常に低いのに、すごいよね、とそんな感想が飛び交う家系の大黒柱だ。

 ちなみに、ザルツブルグの都市運営をしているのはハイエルフの嫁である。


「アルトリア……ッ! 貴様ッ!」


「おかしいですねぇ。サブルトラック商会からの申請書はなかったはずですけど? なんでリックたちに交渉しているのか、説明していただけませんか?」


「つけあがるなよっ……、ミガル王国を裏切った裏切り者の分際で。私が声を上げれば、いつだってこんな辺境の都市など――」


 激情に任せたオッサムの迂闊な発言に、一瞬にして場の空気が張り詰めた。


「辺境の都市を、なんだって?」


 圧迫感の正体はアルトリアだ。その殺気だけで圧殺できてしまうのではないのかと、思えてしまうほどの圧力が、その場にいる全員に重くのしかかった。

 アルトリアの殺気が収まり、無意識に息が止まっていたオッサムは呼吸を整える。


「国に関わる重大なことに、軽率な発言は良くありませんですよ。今日のところは倒れてるクセモノを持ち帰っていただければ、厳重注意だけで済ませてあげますよ」

「このっ……、覚えてろよっ!」


 オッサムは奥歯を噛みしめながら怒りに染まった形相でアルトリアたちを睨みつけ、だらしない体つきでありながらも冒険者二名を引きづって退出していった。


「いやぁ、災難だったね。リック君、カンナちゃん。まさかサブルトラック商会に目をつけられるなんてね。あの映像公開はまずかったねぇ」

「杞憂で終わってほしかった」


 リックは眉間にしわを寄せて頭を抱えた。戻れるなら洞窟から出たときに戻りたいと思っている。S級冒険者の成果を上げた配信が流れるので、ザルツブルグではあまり珍しいことではない。今回はA級冒険者が冥峰竜を単独討伐したこと。それと同時にセキネツ武具店のカンナを中心に製作された魔導巧機重鎧(まどうこうきじゅうがい)の存在でS級並みの話題となった。


 ここまでならまだよかった。だが、不運にもサブルトラック商会の者と接敵してしまったことでリックたちは完全に目をつけられてしまった。


 オッサムは竜の素材とカンナの技術を欲しがった。最近では有人搭乗機ゴーレムに力を入れているという噂があるくらいだ。山脈の件をふまえると真実味が増す。


「まあ、いちばん災難なのはカンナちゃんのほうかな。あの技術は名声を立てたい冒険者にとってほしいだろうからね」

「あれ、現状リックにしか動かせないですよ?」

「冒険者には関係ないよ。もちろん、サブルトラック商会もね」


 面倒くさそうに「ええ」と声を漏らすカンナ。だが、彼女の事情なんてお構いなしに冒険者はやってくるのは事実。今後はなにか対策を立てないといけなくなるだろう。


「それで本体なんだけど、今日はリック君に用があってきたんだけど」

「俺ですか?」

「そう」


 アルトリアは笑みを浮かべながら、リックたちの向かい合うように座った。そして、収納魔法から取り出した一枚の紙をリックの前に置いた。


「おめでとう。今日を持って君はS級冒険者に昇格することが決定しました」


 突然のことにリックは唖然とした。確かにアルトリアはS級冒険者に昇格といった。誰が、いや、彼が見据えてそう言ったのはリックに間違いはない。

 だが、その言葉の衝撃が大きすぎてリックは現実味を感じていなかった。


「急に、どうして」


 思わずリックはそう訊き返していた。わかっているのに、なにが決定づけたのかも明白なのに。だが、言葉にされないとその事実を信じられなかった。


「急もなにも。元からリックのS級昇格の話はだいぶ前から決まっていたことなんだ。ついでにパーティ『バラン・ガタッタ』のS級認定もね。あっちには聖女もいるしね」

「でもなんで、リックよりあいつらが先にS級に認定されたの?」


 すると、カンナが鋭い視線をアルトリアに送りながら訊いた。


「理由は単純だ。昇格の話をする前にパーティ『バラン・ガタッタ』から離れたからだ。ソロになった以上、S級昇格するにはちょっと反感を買いかねないからね」


 そう言いながらアルトリアは、カンの飲み物を二人の前に置き、自分のぶんを開ける。


「リックの実力は重々承知しているが、他人からすればパーティを組んでいたから強い、と思っている人も多い。ソロの実績が欲しかった。だから先に『バラン・ガタッタ』のS級パーティ認定を行ったわけだが。しょうじきのところ、あのパーティはリックありきのパーティだった。束になってもS級ほどの実力もないこともわかってたしな。昇格を気に成長を期待していたのだが、それもリックの離脱で見込めなくなった」


 アルトリアは溜息を吐きながら飲み物を啜った。


「けど、賞金首ザザンの逮捕に、冥峰竜の単独討伐という偉業。これだけの実績があれば誰もがリックのS級と認めるだろう。その紙にサインすれば、はれて君はS級冒険者だ」


 その言葉を聞きながらリックは昇格手続きの紙を持って眺める。固唾を飲むその隣で、「よかったね」とカンナは言ってくれる。

 だが、リックはただ紙を眺めていた。


「浮かない顔をしてるね? なにか不安なことでもあるのかい?」


「……いや、S級になれることはとても嬉しい。だが、今の俺にはS級を掲げられるほど強い目的がないんです。目的だった仕送りはもうやっていないし。冒険者だからただ依頼をこなしているくらいだ。そんな中途半端な状態でS級になっていいものかと」


「べつになんでもいいじゃねぇの? S級になっちまえばこっちのもんなんだからよ。冒険者なんだ。気楽にやっていこうぜ」


 思い悩むリックとは対照的に、アルトリアは気軽にそう言った。ギルド長という立場でありながらそんなことを言う。だが、今のは冒険者アルトリアとしての言葉であることは瞬時にリックは理解した。


「……。なんか、一瞬でも悩んだ自分が馬鹿らしくなったな」


 少し難しく考えすぎた、と思ったリックは溜息を吐いた。自分は冒険者。気の赴くままでいい。最初からそれでよかったのだ。


「そうそう。それでいいんだよ。それに今後どう転ぶなんかわからねぇと思うぜ? 俺なんてもともと超絶美女の姉ちゃんを求めて冒険者になったんだぞ? それが今や英雄と呼ばれてギルド長なんてやってんだからよ」


「あの英雄が下心から……いや、金目当ての俺も言えるわけないか」

「なんでもいいんだよ。冒険者は何者にもなれる、それだけだ」


「冒険者は何者にもなれる、か。いいですね。それ。わかりました。S級昇格の話、謹んでお受けいたします」


 リックはそう言って書類にサインした。


「ああ、それと……カンナちゃんにもC級昇格が決定したから。サインお願いね」

「うそ! やったぁ!」


 カンナもまた、C級昇格が決まったことに大喜びしながら爆速で書類にサインした。


「よかったな。カンナ」

「リックもね。今日は祝勝会だ! お店……、あ、お兄ちゃんも呼んでいいよね?」

「お世話になってるからな。S級になれたのも兄妹の力があってこそだったし」


 リックとカンナはサインをし終えた書類をアルトリアに提出した。

 アルトリアはそれを確認し、ギルド長専用のハンコがその場で押された。


「はい。これで二人はS級とC級の冒険者となりました。今後の活躍を期待しているよ」


 アルトリアは爽やかな笑みを浮かべてそう言った。


「よーっし。今から店探しだぁ!」

「その前に素材をどうにかしてからだ」

「ああ、そうだった……」


 まだやることがあったことに気づいたカンナは残念そうに肩を落とした。


「んじゃ、俺が帰る前にギルド職員に声をかけてくるよ」

「ありがとうございます! ギルド長」


 アルトリアがウインクして退出していった。


 ――


 個室から退出したアルトリアは二人の書類を一瞥する。


「最近になって噂になってるハイスペッカーのS級冒険者に、それを支える職人……いったいどんな冒険をするのだろうね」


 そう呟きながら、書類をしまい、静かな廊下を歩き出す。


「期待してるよ。本当に」


読んでくださりありがとうございます。

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